彼女だけ視えるアカイ世界-2
「君自身もだ。とてもこの世の者とは思えない―――」
首筋に口付けされる
なんて安っぽい褒めコトバ
この世の者とは思えない、か
それは良い意味にも悪い意味にも使える便利なコトバ
彼の身体が暖かい。私の身体はいつも冷たいから羨ましい。
彼の身体…アタタカイ………
「………―――」
少し、心臓の鼓動のリズムがおかしくなった。
気付けば彼の首筋は私の目の前にある。
<…………ダメ。それは>
血管がある。そこを外気に全く触れてない新鮮な血液が流れてる。
<…………もう人を襲わないと、誓った筈>
それは、凄く美味しそう。そういえば私はお腹が空いている。
<…………それをシたら、後には戻れない。お願い、良く考えて>
私の些細な変化に彼は全く気付かない。
彼の掌は私の胸を包み込み、ゆっくりと柔らかさを確かめるように揉みしだいてゆく。
「んっ…………」
背筋が震えた。胸は、少し、弱いから、困る。
<…………ちゃんと今まで我慢出来てたでしょう?>
―――我慢、これ以上の我慢に何の意味が………
あんな冷たくて死んだ血液なんてお腹の足しにもならない。
<…………昔の自分に戻りたいの?>
昔の私? 昔の私はどんな私?
<…………私は、彼の事が好きだったんじゃないの?>
嗚呼、五月蝿い!
―――身体が活動を始める
我慢なんてとっくに限界を越えていた。
だってこの瞳に映る景色は全て赤く、黒い服を着た彼も、晴天で眩しく蒼く澄んだあの空も、この部屋一帯に彩られた全てを無にするような濃い白色も、赤以外の模様なんて瞳が忘れてしまったかのように、どれもみんな全て完全に例外なく、赤い。
特に血液が走るところなんて、そう―――真っ赤っ赤
これ以上なにを我慢しろと?
吸血鬼はキュウケツしてこそ吸血鬼……――――だから私は
私の部屋は赤に染まった。
窓にもソファーにも、至るとこに赤、朱、赤、紅、赤!!
「あははあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」
目の前には干からびた男
倒れてる。死んでいる。腹から下は向こうにある。臓物が飛び出てる。死んでいる。私を気にかけてくれた男が死んでいる。