やっぱすっきゃねん!U…D-7
「永井君と君のチームは来年、ウチの驚異になりそうだな……」
意味深な言葉を呟いた榊。
〈そろそろ向こうに行くよ〉
と、その場を足早に立ち去った。
一哉はしばらく、榊の後姿を眺めていた。
「集合!」
4人の審判がホーム上に並び、主審の右手が上がった。
両ベンチ前の選手達が、一斉にホームへと駆けて行く。
相対して一列に並ぶ両チーム。
やや、緊張した面持ちで相手を見据える。
「互いに礼!」
主審の合図で帽子を脱ぎ、礼を交わすと、青葉中はベンチに下がり、東海中はグランドへと散った。
1番バッターの大野は、ヘルメットを被り左手にだけ手袋を着けると、ネクスト・サークルへ向かう。
東海中は、練習試合にも使われ無かった控えピッチャーを先発に用いて来た。あえてエースを温存する作戦だ。
(…ウチは最初っからエースってのに。なめてんのか……)
大野は睨むような目でピッチャーを見据えると、投球練習に合わせてタイミングを測る。
ピッチャーは、あまり力感の無いフォームで投げ込んでいた。
柔らかく、ゆっくりとしたフォームは信也と共通していたが、スピード、キレとも劣っている。
3年間使われ無かった選手。
だが、彼はひとつだけ優れていた。
「バッター・ラップ!」
大野が右打席に入る。均された地面に楔を打ち込むように、スパイクの爪で土を掻いた。バットのグリップを、ひと握りほど余らせ硬く絞る。
主審の右手が上がった。
「プレイボール!」
場内に開始を伝えるサイレンが、ひと際大きく響いた。
ピッチャーはサインに頷くと、右足を上げて身体を捩る。
大野は広めのスタンスから、わずかに左足を引いて重心を右足に掛けた。
ピッチャーの右足が窪みに埋まり、半身をホームへと回転させる。
大野は左足を踏み出すと半身を逆に捩り、バットのグリップを耳の高さに上げた。
(…なにっ!)
放たれたボールはすっぽ抜けたように、大野の遥か外を飛んで来た。
思わず棒立ちになる大野。
だが、ボールは大きな弧を描いてキャッチャーのミットに収まった。