やっぱすっきゃねん!U…D-5
場内アナウンスが、開始15分前を告げる。信也と山崎はブルペンでキャッチボールを始めた。
ゆっくりとした動きで、1球、1球、指の掛り具合を確かめる信也。山崎もボールの回転をチェックする。
ボールのスピードが、徐々に速くなった。腕だけで放ってたのが、身体を使って投げる。
「ヨシ!行こう」
山崎がマスクを着け、しゃがみ込んだ。ミットを低く構えた。
信也は睨むようにミットを見据えて、左の爪先をプレートに掛けると右足を下げ、グラブを肩の高さに上げた。
〈フッ〉と息を吐く。
左踵を踏み出し、プレートに乗せると、右足を蹴って身体を捩る。まるで太極拳のように、その動作はゆったりしていた。
右足が前に流れ、右手も伸びて行くが、爪先は横を向いたままで右肩も開いていない。
右足が窪みに近づき、腰が回る。爪先が窪みに触れた。
その瞬時、溜めたエネルギーを一気に解放させるように、信也は左腕を振り抜き、指先からボールを放った。
ボールは、強い逆回転による風切り音を残して山崎のミットに吸い込まれた。
ムチ打つような音が響く。
(…スピード、回転とも最高だ…)
信也に返球する山崎。
(…アイツのボールとも、あと数時間でお別れか……)
笑みを浮かべ、山崎は感慨深い気持ちになった。
「ヨシ!もういっちょ行こう」
山崎はミットを構え、声を張りあげた。
*****
「…これなら大丈夫だな」
一哉は呟いた。
ベンチ前で素振りを繰り返す青葉中の選手達や、ブルペンの信也を交互に見つめて。
「また何かアドバイスしたんですか?」
となりに座る佳代は、覗き込むように一哉を見て言った。
一哉は答える。
「連戦を戦い抜くためのな…」
彼自身、高校、社会人で連投により身体を酷使していたからだ。