やっぱすっきゃねん!U…D-16
「シンヤ!オマエ最高だぁ!!」
山崎は信也の腰を抱くと、そのまま抱え上げた。
「…お、おいっ!よせって…」
照れる信也。だが、その顔は喜びでいっぱいだ。
内外野の選手が駆け寄り、〈手荒い祝福〉を信也に浴びせる。
両手で頭を被い、嬉しげな表情でチームメイトの祝福を、ひと頻り受けた信也は、
「…まだ終わってないぞ。挨拶が残ってる」
そう言って皆と一緒に、東海中の待つホームに並んだ。
主審の手が、青葉中に向けられた。
「勝者!青葉中!」
晴れやかな表情の青葉中。
俯き、力無い表情の東海中。
勝者と敗者のコントラスト。
スタンドから歓声と拍手が両者に送られる。
「…最後にスゲぇモン見たなぁ」
「ああ、さすがキャプテンだ」
手を叩きながら、橋本と山下が感激の言葉を交した。
そばの直也は加わらない。ただジッと、グランドだけを見据えるその目には、涙が溢れていた。
「…いい試合だった……」
一哉は粛々と進む閉会式を眺めてポツリと言った。
ふと、横を見た。尚美を囲んで佳代と有理が、嗚咽を漏らしてる。一哉はフッと笑みを浮かべ、視線をグランドに戻すのだった。
陽光はいつの間にか黄昏となり、心地よい風が球場を駆け抜けていた。
秋季選手権大会。
青葉中学校が完全試合という偉業を達成して幕を閉じた。
ー夕方ー
夕暮れの中、ようやく学校に到着した野球部一行は、学校が急遽用意した調理実習室で、ささやかな祝勝会をあげた。
祝勝会と言ってもジュースやお茶、軽食という簡単なモノだが、部員達は改めて喜びを噛み締めている。
当然、一哉や佳代も祝杯の中で終始笑顔だった。
1時間ほど経っただろうか。
時刻は7時を回り、外は朱色が褪せて灰色掛かって来た。
祝勝会も、そろそろ終りを迎えようかという時、
「…ちょっと…」
となりに座る直也にそう言って、佳代は席を立った。