やっぱすっきゃねん!U…D-15
ヒュンッ!
左腕を一気に振った。
右足が爪先立ち、身体が宙を舞う。帽子が飛んだ。
ズドンッ!
ボールは強烈なバックスピンで、低めから浮き上がり、山崎のミットを強く揺らす。
外角低め。バッターは見送った。
(…なんてぇ球だ……)
そのボールを見て、2人の男が驚きの表情を浮かべた。
ひとりは榊。ひとりは一哉。
どちらも、12年前に思いを馳る。中体練大会で〈全国制覇〉した時の試合を。
2球目も躍動感あふれるピッチングを信也は見せる。バッターは打ちに行ったが、完全に振り遅れていた。
「…もったいなかったな……」
一哉が呟やいた。その顔は悲しげだった。佳代は不思議に思い、おそるおそる訊いてみる。
すると、
「今のピッチングなら、全国大会も狙えたろうに…実に残念だ…」
信也の怪我を惜しむ言葉に、佳代は黙って一哉を見つめる。それは柔和な目をしていた。
(…最後の1球か……)
信也はボールを握り、見つめる。3年間の様々な出来事が、頭の中を駆け巡っていた。
ボールをグラブに収め、山崎を見る。サインも無く、ミットを真ん中に構えている。
ゆったりと、なおかつ力強いフォーム。右足が窪みに着いた瞬間、身体の軸を素早く旋回させ、ムチのように腕をしならせ振り抜いた。
ビュンッ!
風切り音をあげ、ホップするボール。バッターは渾身の力でバットを振り抜いた。
スドォンッ!
バットは空を斬った。
ボールは信也にしては珍しく、山崎の構えより高めに外れていた。
「ヨシッ!」
破顔した顔で叫び、両腕を広げて拳を強く握り締める。
あまり感情を表さない信也が初めて見せた喜びの叫びだった。
「やったぜぇ!!」
山崎がバッターをタッチする。
「スィング!バッターアウト!」
主審が右手を上げた。
「ゲーム・セット!」
山崎が信也に駆け寄る。内野手全員がマウンドに走って行った。