やっぱすっきゃねん!U…D-14
7回表。
1塁ベンチ。永井が青木に、
「青木。6回までで何球だ?」
青木はスコアブックを見つめ、
「78球です!」
永井は信也を呼んだ。
「あと1回だ。イケるよな?」
「いきます」
その表情は自信に溢れていた。
7回裏。
信也がベンチから現れた。最後のマウンドに向かう。
スタンドから、ひと際多い拍手が鳴り響く。
マウンドをキレイに均し、丹念に足場を整えている。まるで、試合終了を惜しむかのように。
足場を整えた信也は、投球練習を始めた。
その姿をスタンドから見つめる尚美。ハンカチを両手で固く握り、不安気な表情で目を潤ませている。
最後の投球練習を終えた信也が、山崎を呼び寄せた。
(…何だ…?)
山崎がマウンドに駆け寄った。
「…どうした?」
信也は、少し緊張した面持ちで山崎に言った。
「…全力で投げていいか?」
この言葉に山崎は不安を覚える。
「…もう少し様子を見てからの方が良くないか?」
心配げに語る山崎の提案に、信也は首を振った。
「肩を壊して以来、まだ1度も全力で投げてないんだ。このまま、投げられないんじゃないかって……」
訴えるような目で、山崎を見つめる信也。
「…分かった。じゃあ、最後の3球だけな…」
山崎の言葉に信也は頷いた。
「…スマン…」
「いいさ。でも、最後の3球だけだ。間違うなよ……」
山崎は、そう言うとホームへと戻って行った。
1、2番をショートゴロと三振に取った。あとひとりという所で代打が告げられる。
それを見た山崎の目を見開く。
(…コイツ、治ったのか?)
それは東海中の元4番バッターだった。
事故で右足首の靭帯を断裂し、夏の大会にも出場していなかった。それがようやく、今大会に間に合ったのだろう。
山崎はサインを送る。もちろん、真っ直ぐのサイン。信也は頷いた。
いつものフォーム。だが、違う。足が空を蹴る。腕が伸びる。足が窪みに触れる。一連の動作のひとつ々が、今までより力感に溢れていた。