ヒトナツD-3
***
“渚さんは健吾さんが好きなんでしょう?”
「…っ」
あたしは二人がデートしている間、健吾のベッドに潜り込んで天井とにらめっこしていた。
悩みの種は…桜。
この間のことだ。
「…でも」
「…でも?どうしたの?…あ!健吾に襲われそうになった?そろそろ限界とは思ってたのよねー」
あたしがきゃあきゃあ言っても、桜は顔色を変えなかった。
「渚さんは健吾さんが好きなんでしょう?」
「…はい?」
焦った。
「隠さなくてもわかりますよ。健吾さんに会いに帰国したんですよね?」
うわ、桜、こわ。
「……なんでよー!日本が恋しくなっちゃったんだって言ったじゃない」
「最初に健吾さんに渚さんの話を聞いた時点で、その人はきっと健吾さんに会いに帰ってきたんだってわかりましたし」
「……」
「渚さんに会って確信しました。恋している女性の顔だなって」
「……」
うう。完璧に痛いとこ突かれてる。
何も言わない。何も言わないぞー。
「だから迷ってるんです」
「迷う?」
「私は…健吾さんが好きだし、渚さんが好きだから…二人に幸せになってもらったほうがいいのかな…って」
「…………」
喉が鳴った。
桜…なに言ってるの…?
「…な、なんてこと言ってるのよ!」
「隠さなくてもいいですって」
初めて桜は寂しく笑った。
「……あたしは」
言おう。
「ずっとずっと、十年以上前から健吾が好きだった」
「……」
「向こうでは好きな人なんてできかったし、ずっとずっと健吾のことを考えてた」
「……それで耐えられなくて帰ってきた」
「……うん。でも健吾には三日前にできた彼女がいた」
「……」
「それでもやっぱりそばにいたくて。帰ることなんてできなかった」
「……」
「でも、もう夏が終わるの」
「……夏休みが終われば、渚さんは帰ってしまう」
「……うん。でも、もうすっはり諦めたから。だって桜のことを考えてるときの健吾、とっても幸せそうだから。もうすごいのよ。ずっとニヤニヤしちゃって」
やば、鼻水でてきた。
というか、涙でてきた。