水宮祭[1]-5
「…‥そう。」
また、沈黙。
きちんと俺の話は聞いているようだけど、たったの二文字じゃ話の接ぎ穂が無い。
「…瑠那さんの名前は、やっぱ月からきてるんですか?」
「‥‥‥‥‥。」
苦し紛れの思い付きで言った言葉だった。
これまでで一番長い沈黙の後、彼女はその夜で一番長く言葉を発した。
「…‥ええ。私も‥、私もそうだといいなと思っているわ。」
そう言って夢見るように微笑みをたたえた彼女は、白い首を伸ばし月を見上げた。
束の間見せた彼女の微笑みは、雲間から見える月のように美しかった。
月のように、ひどく遠かった。
砂に書いた彼女の名前は、波に洗われ消えかけていた。