White night-1
甘い香りより、ほろ苦い香りの方が好き。
だけど時々……ほんのたまに、甘さが欲しくなる。
年に二回、社内が甘い香りに包まれる。
2月14日と3月14日だ。
面倒くさいというのが正直な気持ちだが、女性社員は甘い笑顔で男性社員にチョコレートを配る。
それもすべては3月14日、この日のために。
「上条くん、これ、ほんのお返し」
「わざわざありがとうございます、部長」
他の女性社員の顔が一気に緩む。
私の部長から手渡されたゴディバのチョコレートを確認したからだ。
みんなこれが目当て。
まぁ、当然でしょ。
しかしやっぱりおじさんは分かってない。
高いチョコレートで女がみんな喜ぶと思ったら大間違いだ。
「……やっぱりミルクか」
甘ったるいのは好きじゃない。チョコレートはブラックが好き。
軽く息を吐きながらゴディバを鞄の中へ入れた。
「上条さん、これ」
次にお返しを持ってきたのは同期の男性社員。
背も高く、顔もいい。付けているネクタイはいつもセンスがいい。
「確か甘いのそんなに好きじゃないよね?だからブラックにしといたんだけど…」
きわめつけにホワイトデーのお返しもセンスがいい。
まさに満点ね。
恋人がいるのが惜しいとこだけど。
「よく知ってたね、ありがとう」
書類をまとめてパソコンの電源を落とすと、私は喫煙所へ向かった。
煙草の匂いがチョコレートの甘い香りとミスマッチする。
三ヶ月前に別れた彼氏は、もしまだ付き合っていたらホワイトデーに何をくれただろう…なんて考えてみた。
去年は確か腕時計をくれた。チョコレートなんかより断然嬉しかった。
値段がどうこうじゃなくて、必需品をもらうのは助かる。