White night-3
「ホワイトデーです!………なんちって」
「…ははっ、ありがとう」
コーヒーの入った給湯室の白いティーカップを私は小さく笑いながら受け取った。
そう丁度、こんな甘い日にはほろ苦いコーヒーがいつもより飲みたくなるの。
八重歯を見せて笑う、年下らしい可愛い笑顔と無邪気な性格。
女性社員から可愛がられている紺野。
入社五年目、仕事の出来るクールな女な私。
端から見ればアンバランスなツーショットだろう。
まるで今日の煙草とチョコレートだ。
「ホワイトデーこれだけ?」
半笑いで聞く私の言葉に、紺野は「まだありますよ!」と鞄の中から何かを取り出した。
「はい、指切れてますよ」
差し出された絆創膏を前に私は自分の指を確認した。
どうやら紙で切ってしまったらしい。気づいた途端かゆいような痛みを感じた。
絆創膏を受け取り指にまいた。
「じゃぁ、お先です」
「お疲れ」
コーヒーを口にする。やっぱり私の好きな味。チョコレートなんかより嬉しいホワイトデーだ。
何となく立ち上がり窓際へ歩み寄る。
コーヒーを片手に窓の外を覗いてみた。丁度紺野が会社から出て行くとこだった。
すると紺野は急に振り返って、上を見上げた。
三階にいる私と目が合う。
そして紺野は窓を開けてくれというような仕草を見せた。
「何?」
窓を開けた私は少し声をあげた。
「煙草、内緒にしときますね!」
「ばかっ、声大きい!!」
ニカっとお得意の笑顔を見せる紺野。
極めつけにこんな言葉まで。
「忘れ物なんて嘘ですよ!」
目を丸くする私を見て、紺野はもう一度笑った。
そして軽く会釈をして去って行った。