未来への扉〜Prologue〜-4
ーモルジブー
上空36,000キロに浮かぶ巨大な箱。全長100メートルはあるだろうか。長方形のそれは鏡のような表面に被われ、その下には何処までも続くチューブらしき物が真下へと続いている。
軌道エレベーター。通称〈トランスフォーマー〉
地上からの距離を約1時間で結ぶ輸送用機器。カーボンナノチューブを素材とした2本のチューブが、静止軌道上に浮かぶ中継基地と地上との荷物や人を往来させている。荷物は、宇宙ステーションや観光用、探索用のシャトルに送られていた。
「これで最後ね…」
パット・シモンは嬉しげな声を挙げてエレベーターの扉を開いた。小さなコンテナーに詰め込まれた荷物を、大事そうに基地へと運び込む。
「パット。それはNO,1カーゴに運んでくれ。〈大事〉な荷物だからな」
彼女の上官、ケヴィン・ブルンバーグは意味深な口調で言った。
シモンは〈分かってますよ〉と答えると、荷物を奥へと進ませる。
パットは荷物の中身を取り出した。人型のロボットが一対。
彼女はNO,1カーゴ〈外宇宙探索船〉にそれを積み込んだ。
「…頑張ってね…私達の希望…」
パットはそう言うとロボットの肩をポンと叩き、カーゴの扉をロックした。
「よろしく頼むよ」
ブルンバーグが語り掛けているのは、ロジャー・アトキンスとディビィド・ハーマン。2人はパイロットで、すでに宇宙服を身に着けていた。
彼らはにこやかな表情で、
「任せて下さい。〈世界中を欺いた〉このプロジェクトも、もうすぐピリオドを打ちます。後は〈中身〉がその能力を発揮するだけですから…」
ブルンバーグは大きく頷く。
「〈彼ら〉が〈約束の地〉を探し当てる事を期待しようじゃないか」
アトキンスとハーマンはブルンバーグの差し出した手を握ると、部屋を出ていった。
ふと、わずかな大きさの窓を見つめるルンバーグ。窓の外、すなわち真空に浮んでいる3代目シャトル〈ディスカバリー〉
彼は感慨深げに言った。
「…頼むぞ……」
その時、部屋の電話が鳴った。
(…ついに来たか)
ブルンバーグには、電話の主が誰なのか見当はついていた。
しかし、彼に恐れは無かった。
仲間にシャトル切り離しを急ぐよう指示を出すと、
ブルンバーグは受話器を取った。