未来への扉〜Prologue〜-3
時折、ビクンと動く胎児の身体。その度に液面は波紋を作って揺れている。
胎児は生きていた。
人工の羊水に満たされた水槽に、羊膜と胎盤を形成して。
それらを見つめるモンタナの顔は赤らみ、感嘆のため息を吐いた。
「…素晴らしい。実にファンタスティックな光景じゃないですかミス・メイアー。これのドコが未完成なんです?」
上機嫌で言い放つモンタナに対してメイアーは、さも、不機嫌そうに、
「NO,13の〈子宮〉をよく見てご覧なさい。ミスター・モンタナ」
メイアーの言葉通りに、水槽上部にプリントされたナンバーをモンタナは追っていく。
〈NO,13〉が目に飛び込で来る。彼は視線を下へと移した。
「あれは!」
目を大きく見開き、驚きの表情を表すモンタナ。その水槽だけはひどく濁り、どす黒い紅色になっていた。
彼の目に映ったのは、半身から下が溶け落ちた人間の胎児だった。
思わず顔をしかめ、口元を押さえるモンタナ。メイアーは彼のとなりに並び立つと、同じ物を見つめながら静かな口調で答えた。
「7週目を過ぎたあたりから、ああなったの……何らかの酵素の働きが原因と推測されるけど。まだ調査中なのよ」
嘘だった。
メイアーは胎児を〈作り出す〉時、わざと癌細胞因子の割合を増やしていた。
全てはプロジェクトのために。
「…どのくらい掛りそうです?」
モンタナはメイアーの顔を覗き込むと、興味深げな目をして訊いた。
「…そうね……」
メイアーは両手を白衣のポケットに突っ込み、天井を仰いで答える。
「…明日かもしれないし、一生分からないかもしれない。…まさに〈神のみぞ知る〉ね」
そう言うと踵を返してデスクに戻った。
「……そうですか」
モンタナは落胆の色をありありと見せると、
「また出直て来ますよ。さ来週にも伺いますから」
それだけ言って部屋を後にした。メイアーはモンタナの足音が消えたのを確認すると、ディスプレイを打ち込み出した。
〈時は来た。夢の列車を走らせよう〉
彼女はそう打ち込むと、送信ボタンを押した。送信は瞬時に暗号化され、〈仲間〉へと送られた。
しかし、
送信を終えたメイアーの瞳には、哀しみが宿っていた。