未来への扉〜Prologue〜-2
男はラボ・ドームの入口を潜り、中を伺うと、
「ドクター?ドクター・メイアー!何処です?」
声をあげながら中を伺う。入口の部屋は、壁に張り付けたように数々の機器に埋め尽くされていた。
「ミスター・モンタナ。こっちよ」
声は部屋のさらに奥の部屋から聞こえる。モンタナと呼ばれた〈男〉は入口の部屋を通り越し、声の聞こえた奥へと入って行く。
広さは40m2程。巨大な扇形の木製デスクを中央に配し、その上には数々のモニターやディスプレイがセットされている。
「ドクター・メイアー。お久しぶりです」
モンタナの前に白衣の女性が立っていた。襟元まで伸ばしたブラウンの髪。真ん中に生えた黒いメッシュが印象的だ。
角ばった輪郭に太い眉、黒い瞳に薄い唇。地黒の肌からネィティブ・アメリカンを思わせる。
シイラ・メイアー 30歳。生化学・再生医療学の世界的権威。
「こんにちは。ミスター・モンタナ」
モンタナは笑顔で白衣の女性に歩み寄って行く。対して〈メイアー〉と呼ばれた女性は無表情で、彼の差し出した右手を握った。
モンタナは気にした様子も無く。
「貴方の研究が完成したと聞いたものですから、急いで伺った次第で…」
メイアーは、モンタナの言葉に顔を曇らせるとため息を吐き、
「…残念ながらまだね。それ、何処の情報?」
モンタナの顔から笑顔が消えた。
「…〈政府〉の特務機関です」
メイアーはモンタナに背を向けると、デスクに着いてディスプレイを操作する。
モンタナはメイアーのそばに寄り、低く重い口調で言った。
「…情報に間違いはありません。ミス・メイアー。貴方の行動は我々の〈仲間〉が監視してますから…」
途端にメイアーの声がオクターブを上げた。
「だったらその目で見てみたら!?」
メイアーは勢い良く席を立ち上がり、透明の隔壁板を指差した。
モンタナは言われるままに、隔壁の先にある奥の部屋を覗いた。
そこには様々な大きさで円筒状の水槽らしき物が並んでいた。
水槽は薄紅色の液体に満たされ、中に乳白色の物が見える。
それらは、動物の胎児だった。
牛やブタ、馬や羊などの様々な補乳類の胎児が水槽に浮かんでいた。
胎児の周りには、玉子の薄皮のような物に被われ、へその緒が伸びている。それは水槽に張りついた血の塊のような物へと繋がり、その先を人工的なチューブや電線が続いている。