イヴの奇跡U-8
『お前は…“社長”の俺が欲しかっただけだ…だから、必要なくなったら捨てたんだろ?今更…戻る気なんて…』
深いサファイア色の瞳が困惑の色を見せる。
『…ないの?貴方には戻る気……?楽しかったじゃない…ね?私…あなたとの時間が幸せだった。手放して、ずっと後悔してたのよ。』
そう告げて神崎の頬に女の手が触れる。神崎がビクリと反応したが女は構うことなく頬を撫でた。
そして…
唇を重ね…
『やあっ!!』
『!?』
女が神崎の後ろから響く声に驚き声の方向に視線を移す。
『…イヴ。』
我に帰った神崎がとっさに女から一歩離れた。
ぜんぜん…
全然わかんない…
なんで、こんなに嫌なんだろう?
あの日、あの時、
捨てられた悲しみに似た
裏切られたような気持ち。
捨てられた私を拾って
大切にしてくれた人も
きっと私が要らなくなれば
また私を捨ててしまうんだね…
だって、
私は所詮、
ペットだから…。
ボロボロと頬を伝う雫を拭うことなく、イヴはキャミソール一枚の姿で二人を見つめていた。
『ふぅん?彼女?随分幼い顔した女……』
鼻で嘲笑うように言う。
まるで自分の方が…と言うように。
『見えそうで見えない…そうゆうのが売り?』
嫌味だってことはわかった。
きっと私に圭は釣り合わないのだと言われてる…。
この服も気に食わないみたい…。
見てるの辛いなぁ…。
困ったように笑ってイヴは両手で涙を隠す。
『イヴ…待て!!』
神崎が声をかけると同時にイヴはパッと身を返して廊下からリビングへと逃げてしまった。
『いいじゃない。どうせお遊びなんでしょ?私の方があんな子供より、もっと圭にイイコトしてあげられるわよ?』
自信たっぷりに女はそう言って神崎に近づき下半身へと手を伸ばす。
『…〜。』
『え?』
神崎がボソリと放つ言葉が聞き取れずに女は聞き返す。
『…帰れと言ったんだ!!』
下半身をまさぐる女の手を掴み上げ、自分の家のカードを奪い返す。そして玄関の扉を開けて女を放り出した。