冷たい情愛11-2
「仕事で初めて会った時、すぐに分かりました」
彼は、最初から分かっていたのだ。
打ち合わせの時、いつも冷たい目をしていた彼。
仕事上とはいっても、不自然すぎるほど感情の無かった彼。
それなのに…その目に私は発情していた。
それを私は…被虐的な興奮を覚えたのだと錯覚していた。
でも本当は、冷たい目の奥にあった彼の「抑圧された感情」に発情していたのかもしれない。
「貴方が先生のところに通っていることも知っていました…好き合ってることも」
彼は、知っていたのだ。
「秘密」を…。
「やめましょうか?やっと区切りをつけた過去なのに、蒸し返すことになりませんか?」
彼は静かにそう言った。
母校を訪れ、あれだけ軽くなった心が…また過去に引き戻されそうになる。
なんて弱い私なのだろう。
でも、違う気がする…
私は思った。
遠藤さんのことを知りたいと。
彼の思った過去、思う今、それを知りたい。
それが偶然にも「私」に繋がっていただけだ。
私は…好きになった「彼」のことを知りたいのだ。
「話してください…いろんなこと、貴方のこと」
彼は、無言のまま私の手首を軽く掴んだ。
それが彼の言葉なのだと思った。
彼は言葉を発しない。
それは、私の過去の傷を開かないよう…模索しているようにも見えた。
私もこれ以上、言葉を発する気持ちにはなれなかった。
言葉で伝え合う事に、無理があるような気がした。
私は自分から、彼の横に体を移し…自分から唇を重ねた。
彼は、そのまま話し続けることを拒んだ。
その意図が、不思議と分かる気がした。
過去、実は同じ時間を同じ学び舎で過ごした…その話をする前に…
過去の遠藤さんを知る前に…
今の自分を繋ぎたかった。
少し前の過去の夜、それは心は繋がっていなかったから。
幸福を一瞬でも感じられる繋がりが欲しかった。
手を繋ぎ夜道を歩いた時と類似した、あの感覚を。
彼の大きな手が、私の頬を包む。
彼の舌が私の口腔へ侵入してくる。
熱い…あの冷たかった目からは想像も出来ない程の熱い彼の温度。