華麗なる1日-1
ー夕方ー
「ただいま戻りました!」
威勢の良い声とともに、藤野一巳は事務所に現れた。出張を終えて戻って来たのだ。
〈おかえりなさい〉〈お疲れ〉
という上司や仲間の声を受けながら、一巳は自分のデスクにたどり着いた。
当然、仕事はまだ残っている。
出張で集めて来たデータを、パソコンに入力して分析する。一巳は、デスクの左隅に置かれたノートパソコンを開き、電源を入れた。
小さな作動音を残しながら、パソコンが起動する。一巳は上着を脱ぐと、席に座るとディスプレイが立上がるのを待った。
その時だ。
上着に入れた携帯が震える。
一巳はパソコンから視線を外すと携帯を開いた。それは、美香からのメールだった。
〈定時に終わらせてよ。今日は記念日だから。モエのシャンパン、買ってあるから〉
(…記念日って…何だ?)
携帯を眺めつつ一巳は考える。
〈アイツの誕生日は11月だし、オレのは10月だから。他に……〉
思考を巡らせるが、皆目見当がつかないらしい。
(まあいいや…それよりも仕事だ……)
一巳は〈まだ仕事中。定時にゃ終んないよ〉とメールを返す。
すると、再び美香からのメール。
〈とにかく早く終らせろ!家で待ってるから〉
彼女のメールに笑みを浮かべ、一巳は携帯を上着にしまい込むと、パソコンのキーボードを叩き初めた。
「…よし!と…」
リビング兼ベッドルーム兼ダイニングの、10畳ほどのひと間に置かれたローボード・テーブルには、所狭しと料理が並んでいる。
地鳥の炭火焼、ブリの照焼き、アサリの酒蒸し、ゴマ豆腐、野菜サラダ。
湯気の立ち昇るそれらの料理を、見つめる美香の顔は微笑みを称えている。
「アッ」
思い出したようにキッチンに走る美香。冷蔵庫を開けてシャンパンのビンを触る。
〈うん!冷えてる〉
美香は再びテーブルの前に座ると、料理を眺めてニヤニヤしていた。