華麗なる1日-5
「ちょっと待て!」
一巳は美香の身体を抱きかかえながら、自身もフラつく足元でトイレへと駆け込んだ。
「ホラ、出しちまえ」
嫌がる美香の口にムリヤリ指を突っ込む一巳。
途端に声を挙げて、美香は胃の中のモノを吐き出す。一巳の手に温かい液体が掛かる。むせる彼女の背中をやさしく撫でた。
何度か吐き出してようやく落ち着いたのか、荒い呼吸で、
「…ごめん……」
「ちょっと待ってろ」
トイレの水で嘔吐物を流し、一巳は美香を置いてキッチンに向かう。
手を洗うと、カップに水を入れてレンジにかけた。
〈チン!〉
レンジから出したカップから湯気が上がってる。一巳はひとツマミの塩をカップに入れて、スプーンで掻き混ぜた。
タオルを濡らして固く絞ると、カップと一緒に美香のもとに向かった。
「落ち着いたか?」
一巳が覗くと、美香は便器を避けるように、身体をくの字に曲げて横たわっていた。
「まったく…」
カップとタオルを廊下に置いて、美香の身体を引き起こす。
「ホラ、起きろ」
そう言うと、涙や鼻水、嘔吐物で汚れた顔をタオルで拭った。
「…うう…や、やめ…」
「ヨシ、キレイになった。次はこれを飲め」
虚ろな目でカップを見つめる美香。
「…なぁに?これ…」
「塩を入れた白湯だ。荒れた胃に冷たい水は悪いからな」
美香はカップを一気に飲み干した。
一巳は再び美香を抱えると布団に寝かせ、片付けをして部屋を後にした。
「ふうっ」
アパートを後にした一巳。すでに酔いは醒めていた。帰り道で夜空を仰ぐ。
冷えた空気は澄み渡り、数々の星が瞬いていた。
笑みがこぼれる。
(…とんだ記念日になったな……)
その瞬間、一巳は思った。
「…そういや…何の記念日なんだ……?」