華麗なる1日-4
「ついで!」
シャンパンボトルを差し出す美香。一巳は仕方ないといった表情でグラスに注ぐ。
ゆらゆらと揺れる美香の身体。
(…こりゃ長引くな……)
グラスに注ぎ終わった一巳は、立ち上がる。
「何処に行くの!」
「ちょっと待ってろ」
コートと上着を脱ぎ捨て、ネクタイを緩めながら、キッチンへ向かう。
〈勝手知ったる他人の家〉
流し台の下からワイルドターキーを取り出し、ショットグラスを持って部屋へ戻った。
「さあ、聞かせてもらおうか」
手酌でターキーを注ぎ、一気にあおる。先ほどまでのかしこまった様子は無い。
(…こうなりゃオレも酔っちまおう。シラフで聞けるかってんだ!)
ショットグラスが何度も空にする。その間、美香の怒りの言葉はずっと続いていた。
「ちゃんと聞いてる!?」
「…ああ、聞いてるよ」
一巳の目は据わり、頬は赤みが差している。残った料理をツマミに、ショットグラスを傾ける。
「仕事だから仕方ないだろう」
その一言が美香の逆鱗に触れた。
「アンタ!いっーつも仕事々よね!私の誕生日だってクリスマスだって…」
一巳も反論する。
「仕方ない。仕事あってこそオマエと付き合える。主従関係を吐き違えるな…10代のガキならともかく、来年30になるような女が」
さらに、この一言が火に油を注ぐ。
「…10代の娘だったら行くわけぇ!だ、だったらそんな娘と付き合えばいいでしょ」
支離滅裂。もはや何を言ってるのかさえも分からない。
「料理作ったり、シャンパン冷やしたり。3日前から準備したんだから…」
そこまで言うと、目に涙を溜めた。
「…すまなかったな……」
(…まいったな。今度は泣き上戸かよ……)
「…き、今日の…ため…私、私がどれだけ…」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔で、詰まりながら訴える。一巳はポケットからハンカチを取り出し、そっと美香に手渡した。
「ほら…」
美香は涙と鼻水を拭うと、
「…3日前から……」
「その話は聞いたよ」
一巳はうんざりといった表情で美香を見つめる。
と、
突然、口元を押さえる美香。慌てて立ち上がるが、足元がフラついている。