華麗なる1日-3
午後10時過ぎ。
9時半にようやく仕事を終えた一巳は、美香のアパートにたどり着いた。
入口のインターフォンを鳴らすが全く応答が無い。
(…すねて怒ってんのか?)
一巳は美香の部屋の暗証番号を打ち込み、オートロックのドアーを潜り抜ける。
エレベーターを降りて部屋の玄関に着いた一巳は、ドアーフォンを鳴らす。が、再び返事は無い。
仕方なく合いカギでドアーを開けて中に入ると、横たわる美香の姿が奥に見えた。
「ミカ!」
慌てて駆け寄る一巳。
だが、部屋に入った瞬間、あまりの惨状に身体が凍りついた。
テーブルに並んだ数々の皿が食い散らかされ、横たわる美香が抱えて眠るのは、2/3は飲み尽されたシャンパンのボトルだった。
(…コイツ、待ちきれずに……)
一巳は苦い顔で美香を見つめ、
(酔ったコイツは感情的だ。起きたら厄介だ。とっとと逃げよう)
一巳は押し入れから掛け布団と毛布を取り出し、そっと美香に掛けた。
さすがに、このままでは風邪を引きかねないと思ったのだろう。
抱えたシャンパンのボトルを、テーブルに置こうと掴んだ。
まさにその時、
「何よぉ!」
叫びと共に美香が起き上がる。
「…よ、よぅ…」
〈しまった!〉と一瞬、苦い顔を見せた直後、作り笑顔を美香に向ける一巳。
だが、美香は虚ろな目を一巳に向けたまま、
「カズミ!…ちょっとアンタ、座んなさい!」
(クソッ!逃げ遅れた)
「ちょ、ちょっと待て」
「いいから座れっつうの!」
美香は再び声を張り上げる。一巳は考えた。
〈このままでは近所迷惑だ。ヘタすりゃ怒鳴り込まれかねない〉
一巳はコートも脱がすに美香の前に正座すると、
「…すまない。記念日と言うのに遅れてしまって」
そう言うと頭を下げる。
しかし、美香は納得しない。
「どうせ仕事でしょ!…ひとがこれだけの料理用意して待ってたのに」
チラリとテーブルを見つめる一巳。
(…なにが用意してだ……買って来た惣菜、皿に移しただけじゃねぇか…)