ありがちな出来事-1
彼とのドライブは私にとってとても楽しいひとときだった。
だが、それは唐突にやってきた。
『ありがちな出来事』
「…ち、畜生」
彼が悪態つく。
私はただ呆然とその光景を見ていた。
大破し燃え上がる車。遠くで聞こえるサイレン。大地を真っ赤に染める彼から流れる血。
出血の量からただ漠然と、彼はもうすぐ死ぬのだな、と思った。
「お前は大丈夫…なのか?」
青くなった唇で弱々しく発する彼の声。
「…はい」
私はいつものように答える。本当は片足の感覚がなかった。
彼の目線は宙をさまよって、段々彼の瞳から光がなくなっていくのが分かった。
「…ご主人様?」
彼にはきっと私の言葉は伝わらないだろうが、聞いていた。
彼は微笑んで
「いきたいなら……走れ…」
私が答える前に彼は瞳を閉じた。
彼の『いきたい』は『生きたい』か『行きたい』かは、分からなかった。
でも、私はいかなかった。
息絶えた彼の傍にうずくまる。
私は『生きたい』も『行きたい』もなかった。
たった数千円で売られていた、ぼろぼろの私を彼は優しくしてくれた。
だから、最後は彼の傍で終わりたかった。
そして、私は瞳を閉じた。
ありがちな交通事故だった。
居眠り運転をしていたトラックが普通車に衝突。
居眠り運転の運転手は重体、衝突された運転手は死亡。
「俺も飼おうかな…」
事後処理をしていた警官が、衝突された運転手の傍――寄り添うように片足を失って息絶えていた犬を見て呟いた。