SLOW START \〜加藤さくら〜-6
あんなに愛し合っていても人はいつか忘れる、別れてしまう…ならば初めから本気になんてならない方がいい。
私は起き上がりベランダに出た。
すっかり夜になったしまった。風が冷たい。
トモがいなくなったのは今くらいの時期だった。
屋上で交わした愛してるの言葉が最後…
深呼吸をして部屋へ戻る。
私はシャワーを浴び眠りについた。
朝、起きるといつもと何かが違っていた。
鼓動が早い。
…また貧血かな…
会社へ向かう。
制服に着替え受付に座ると社員が続々と出勤してきた。
いつも通り仕事をこなしていたが鼓動はまだ収まらない。
具合が悪い訳でもない。
…なんだろ
そして退社時間になり帰るために整理をしていた。
自動ドアが開く。
来客が来る時間はもう終わったはずなのに受付に向かって真っ直ぐ歩いて来る人がいる。
「申し訳ございません。本日はもう…」
頭を下げながら言った言葉は途切れる。
「加藤さくらをお願いします。」
懐かしい…愛おしいその声に私の鼓動は一層激しくなって…
ゆっくり顔を上げる。
私の目の前には…。
またここから始めよう。
ゆっくりとゆっくりと…
さくらの季節はあともう少し…。
本編につづく