SLOW START \〜加藤さくら〜-3
…あたしだって誰かを本気で愛したいよ…
私が愛したのはあれが最初で最後だ。
思い出しながら眠りに堕ちていった。
「…ら、さくら」
…ここは何処だろう…
目を開けるとそこは懐かしい場所だった。
そして懐かしい声…トモ?
「また貧血だろ。朝飯食えよ。」
低くて甘い懐かしいトモの声。
ここは高校の保健室だ。隣に座ってるのは私の初めての彼氏…知之。
私が愛した最初で最後の人。
トモは優しく頭をなで保健室を出て行った。
トモと初めて会ったのは高校の入学式…
貧血で倒れた時に隣に並んでいたトモが保健室まで運んでくれた。
教室にいくとトモがいた。私の隣の席らしい。
最初から惹かれていたのかもしれない。
短い髪に焼けた肌が印象的だった。
クラスの皆とは何かが違う。
二人が仲良くなり付き合い出すまでに時間はかからなかった。
お互い初めて手を繋ぎ、初めてのキスをして、初めて体を重ねた。
二人でいると涙が出るまで笑い、本気の喧嘩をして、泣きながら仲直りをする…
総てに全力でぶつかり、全力で愛した。
…そうだ。私トモが大好きだった…
甦る記憶を辿りながら保健室を出て屋上に向かった。
…多分この時間なら…
普段は鍵が掛かっている屋上だが、ある時だけ開いている。
ドアノブを回し扉を開く。
…やっぱりいた…
屋上の柵に寄りかかりながら眠っているトモがいた。
どこで手に入れたのかトモは屋上の合い鍵を持っていた。
サボる時はいつもここ…二人の秘密の場所だった。