やっぱすっきゃねん!U…C-9
「…あのさあ、ナオちゃん……」
佳代は遠慮がちに尚美に言おうとしたが、一哉が止めた。
「もう終わるからほっとけ…」
一哉が呟くように言った。
信也のピッチングが始まると、尚美は席を立って金網フェンスに近づいていた。
その顔は先ほどまでの笑顔は無く、どちらかと言えば哀しげに見える。
信也は全く危なげ無かった。
静かなる闘志を燃やし、3者連続三振に斬って取った。
かくして青葉中学は、1回戦をコールド・ゲームで勝ち抜いた。
ー夕方ー
三洋軒のテーブルを囲むように、4人は大盛りのラーメンをすすっている。
「ふうっ…」
先に一哉が食べ終わると、ティッシュで吹き出る汗を拭い、氷水の入ったコップを傾ける。
「はぁ、美味しかった!」
遅れて佳代が食べ終わり、一哉と同じように汗を拭った。
すると、
「もうダメ…入んない…」
有理が辛そうな顔で箸を置いた。
「ユリちゃん。まだ、こんなに残ってんじゃん」
どんぶりは、半分ほど残っていた。有理は眉を寄せて、
「…こんなに食べれないって、最初に言ったじゃない」
佳代は〈仕方ないなぁ〉と言いながら、有理と自分のどんぶりを替えた。
驚きと言うより、呆気に取られる有理。
「まだ、食べるの?」
「軽い々。余裕だよ」
笑顔でそう言うと、再び麺をすすり始める。となりで見ていた一哉は笑いながら有理に、
「コイツは小6の時に、カレー4杯食ったんだ。大丈夫だよ」
「4杯も…ですか…」
呆れ顔で一哉の話に聞き入る有理。すると、佳代は食べる手を休めず上目遣いで、
「こーひ。ひひかへん…」
「モノを食べながら喋るモンじゃないぞ。カヨ」
慌てて麺を飲み込み、
「いい加減、その話は止めて下さいよぉ」
テーブルに笑い声が挙がる。しかし、尚美は加わらなかった。
そればかりか、いつもなら十分平らげるラーメンも、半分ほど残して持て余している。
笑いが止み、気まずい雰囲気が覆う中、俯いて〈はぁ〉と、ため息を吐く。