やっぱすっきゃねん!U…C-4
「グッ!」
鈍い音が聞こえた後、バッターが右手を抑えて倒れた。
ボールが予想以上に内に入り、打ちにいって当たったのだ。
「スイング!バッターアウト!」
主審が右手を回す。
バッターはすぐに立ち上がり、左手にバットを持ってベンチに戻るが、痛みに顔をしかめている。
「ボール交換お願いします」
山崎が主審に新球をもらい、青木に渡す。彼への配慮だろう。ぶつけた球をそのまま使うのは気分の良いモノじゃない。
「ワン・アウトォー!」
青木は、右手の人差し指を立てて後を向いた。内外野を守る仲間達も〈オオゥッ!〉と声を出し、グラブを高く上げた。
山崎は2番、3番に対しても真っ直ぐだけで勝負する。青木は意気に感じ、全力投球を続けて行く。
瀬高のバッターはボールの勢いに圧倒され、2番は三振、3番はセカンドゴロに終わった。
晴れ々とした表情でマウンドを駆け降りる青木。2ヶ月前と比べモノにならないピッチングを披露した。
それを目のあたりにしてライバル心を燃やすのは、2番手を予定されている岩田だ。
3年生の中では信也がエースで、後の青木、上野と岩田は同列と思っていた。だが、地区大会では使われる事無く悔しい思いをしていた。
「監督!準備させて下さい」
岩田は永井に直訴する。
普段の永井なら、球数と球威を見て継投準備をするのだが、岩田の必死の形相に折れた。
「いってこい!」
永井の言葉に岩田は破顔する。
「ハイッ!」
そんな岩田に声が掛かる。
「オレが相手するよ」
「信也…」
キャプテン信也が、ミットとマスクを持って岩田に近寄る。
「いつでも行けるよう準備しようぜ!」
信也の言葉に、岩田はグローブを掴むとブルペンへと走って行く。その後を信也も追った。
「ヤバいなぁ…」
スタンドから見つめる一哉が、青木のピッチングを見て声を挙げる。それを聞いた佳代は、怪訝な表情で、
「何がヤバいんです?」
「…青木のピッチングだ。…こりゃ完封も有るかもなぁ…」
「そんなにスゴいですか?」
「ああ。おそらく打てんだろう。最終回は信也だろうから、2番手の出来次第じゃあり得るな…」
問いかけに答えたところで、一哉は佳代を見た。