やっぱすっきゃねん!U…C-2
「…いいボールだ……」
スタンドで見つめる一哉が呟いた。となりで聞いた佳代も頷いて、
「青木さんのボール、伸びてますね」
「ああ、上下のバランスが良くなったな」
返答する一哉は、青木から目を離さない。その表情は穏やかだ。
佳代は、そんな一哉を見て嬉しくなる。
「コーチ。賭け、しませんか?」
あまりの場違いな発言に、一哉はサングラスを外して佳代を見た。ニコニコと笑っている。
「突然、どうしたんだ?」
「今日、ウチが完封したら私の勝ちって事で…」
一哉は佳代を見て内心驚いた。〈完封したら〉と言っている。地区大会で敗けた相手に、点を奪られるはもとより、敗けるなど未塵も思っていない。
一哉はサングラスを掛けながら、苦笑いを浮かべ、
「カヨ。オレはコーチだぞ。点を取られたらオレの勝ちなんて、そんな賭けには応じられんよ」
佳代は頬を膨らませてグランドを見つめ、
「ちぇっ、いい考えだと思ったのに…」
一哉はそんな佳代をチラッと見ると、
「…そうだな。10点差で完封なら乗ってやらんでもないが…」
途端に佳代の目が輝く。
「10点差ですね!やります!」
「で、何を賭けるんだ?」
佳代は〈う〜ん〉と唸っていたが、すぐに笑みを向けると、
「じゃあ、三洋軒のラーメン!3人前で」
「ラーメンは分かったが、何故3人前なんだ?」
「それは…」
佳代はチラリと尚美と有理を見ると、いたずらっぽい顔を一哉に向けた。
「私と友達2人の分です!」
そう言って尚美と有理を指差した。途端に2人は焦った顔で、
「ちょ、ちょっとカヨ!」
「私達はいいわよ!」
だが、佳代は聞く耳を持たずに、〈いいから、いいから〉と手をひらひら振って、
「良いでしょ?コーチ」
一哉は再び苦笑いを佳代に向け、
「オマエには負けたよ…」
「ヤッタ!10点差で完封ですよ!」
「分かったよ…」
一哉は小さく頷くと、再びグランドに視線を戻した。