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せかいいちしあわせなはなし
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せかいいちしあわせなはなし-1

さむい、さむい冬の夜のことでした。
ちらちらと降る雪がうすくつもった細い道に、ひとつのあしあとがつづいています。
しゃり、しゃり。
高いヒールのついたブーツが、雪を踏みしめます。


それは、とてもきれいな女の人でした。
肌は雪のように白くて、ショールのあいだからのぞく長い髪はつやつやとした黒。
ルージュをひいたくちびるは、血のように真っ紅です。
もしこの女の人とすれ違ったなら、誰もが、雪女とみまちがえてしまうことでしょう。

しかしその夜は、この女の人のほかには、だあれも外におりませんでした。
それに、女の人が身につけているものは、みな夜の闇より真っ黒でした。
ですからどのみち、白い衣と昔から決まっている雪女には、みえなかったかもしれません。


そうです。ほんとうに、女の人のコートも、ブーツも、ショールも、てぶくろも、まるでおそうしきに行ってきたみたいに、みんな真っ黒だったのです。
そうして、女の人の表情も、まるでおそうしきに行ってきたかのようでした。


女の人は、はぁ、とため息をつきました。
女の人は毎日、とても大きな会社で働いているのです。
それは、女の人がしあわせになるためでした。
男の人たちに負けないくらい、一番の働き手である女の人は、たくさんお金が貰えるのです。
それで、女の人はしあわせになるはずでした。
なぜなら、女の人の育ったお家は、とても貧乏だったからです。

でも、もうそんな元のお家のことは関係ありません。
一人で生きていくと決めたとき、両親とは「縁を切って」きたからです。
頑張って働いて、大金持ちになった女の人は、誰にも後ろ指さされることなく、しあわせに暮らせるはずなのです。
けれど、女の人の表情は相変わらず、おそうしきに行ってきたようなのでした。



雪が、少し強くなりました。
風も強くなって、女の人はコートの前をかきあわせました。
ふと前に目をやると、うすぼんやりとした街灯の下に、黒いかたまりが見えます。
近づいてみると、それは小さな机を前に、小さないすに腰かけた、小さなおじいさんでありました。

「こんばんは。」
女の人の声と、机に落ちた影に、おじいさんは顔を上げました。
「これはこれは。何かご用ですかな。」
にっこり笑ったおじいさんの小さな目は、いく筋ものしわに埋もれて、ますます小さくなりました。
「・・・あなたは、何をしていらっしゃるのかしら。」
女の人は机の上に目を落として、逆にたずねました。
そこには、錆びた腕時計、先の曲がった万年筆、毛皮のとれかけた手袋・・・今の女の人から見れば、ガラクタとしか呼べないものばかり集められていたのです。
しかし、元は高価であったもののようで、このおじいさんと同じく、どこかに品の良さが感じられるのでした。


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