「史乃」-9
ー第4章ー
想い
夕食の時刻。並べられた料理に箸を進め、他愛の無い話に終始する父と娘。
「…それで由美としゃべってたらCADの講師から怒られちゃって」
「CADの講師って?」
今日、起きた出来事を話す史乃に寿明は頷くと、質問する。
「え〜、建物を設計する時に、構造計算とか積算が必要なんだけど、それらを支援してくれたり、完成図面を3次元表示するソフトなの」
「それじゃ大事な授業じゃないか」
「…まあ、そうだけど」
史乃は、寿明から視線を逸らすと、ペロッと舌を出すと食事を続けだした。
(…気まぐれなトコは私に似てしまったな)
寿明はそんな史乃を見て、目を細めていた。
「あっ!そうだ」
声を弾ませ立ち上がる史乃。
「どうした?」
「今日、パジャマ買ったの忘れてた!」
史乃はダイニングを出ると、大きな袋を持って戻って来た。
「これ、お父さんの。今、着てるの大分ヨレヨレだったから」
袋を寿明に渡す。
「どれ…」
袋を受け取ると、寿明は中身を出して見る。ベージュ色のリネン・パジャマ。
「こりゃパジャマには勿体無いな」
「でしょう。大事にしてよ」
史乃の、勿体振った言い方に寿明はニヤリと笑うと、
「史乃がくれた初めてのプレゼントだからな。部屋に飾らせてもらうよ」
そう言ってケラケラと笑い出す。その様子に史乃は唇を尖らせていたが、すぐに笑みに戻ると、
「お父さんには負けたわ…」
諦めた口調で言葉を返す史乃。
娘と共に食事を摂り、1日の出来事を語り合う。今の寿明にとっては無くてはならないモノだった。