「史乃」-3
寿明は廊下を進み、右手ドアーを開く。
「…こ、ここが史乃の部屋だ」
そこはヒノキの板壁に囲まれた10畳ほどの部屋で、広い出窓は室内を明るくしている。他にもベッドや机、ドレッサーなど必要な家具も揃っていた。
「…こんなに……」
驚きの表情を浮かべる史乃。それを見つめる寿明は目を細めて喜んだ。まるで、失われた15年間を取り戻そうとしているように。
「他に必要なら言ってくれ。すぐに取り寄せるから」
史乃は振り返ると、
「…これで充分です」
そう言って姿勢を正し、真っ直ぐに寿明を見つめて頭を下げた。
「…これから、宜しくお願いします……お、お父さん」
史乃の言葉を聞いた瞬間、寿明の目から涙が湧き上がる。感情を抑え切れずに嗚咽を漏らし、
「…こ、こんな私…でも、ち…父親と呼んで…くれるのかね……」
史乃は、震える寿明の手を取ると小さく頷いて、
「…もちろん……」
そう言った史乃の目も涙で濡れていた。2人が15年の時を越えて、親子になりえた瞬間だった。