「史乃」-17
「どうしたんだ?どこか具合でも悪いのか」
娘の異様さに気づいた寿明が、心配気な声を挙げる。
史乃は震える唇で平静を装うが、それがかえって、欲情を煽っていく。
「なんでも無いよ。……ん…少し酢がキツくて…」
咄嗟に出た嘘に、寿明は納得したのか、
「…そうか。明日の夕方には帰るからな」
「…うん…お土産、忘れないでね…」
「ああ…」
電話が切れた。史乃は子機を握りしめたまま、ダイニングテーブルに突っ伏した。
「…あぁん…あん…ん……」
史乃は疼いた身体を慰めるべく、秘部をいじくり続けるのだった。
電話を終え、席に戻った寿明。山本はその顔を見つめて、
「何かあったんですか?」
「エッ?」
「だって、深刻な顔してらっしゃるから……」
山本の言葉に少し驚く寿明。作り笑顔で頬を撫でながら、
「…まいったな。そんなに深刻な顔だったかね?」
「エエ、何か問題でも抱えてらっしゃるようですよ」
寿明は苦笑いをすると、
「…実は、娘が留守を預かってるんだが、どうも体調を崩してるみたいで……」
「大丈夫なんですか?」
「本人は何とも無いと言ってるんだが……」
寿明の言葉に、山本は慈愛の表情で、
「お父さんに心配掛けまいとしてるんですよ。優しいじゃありませんか」
山本が言葉を続ける。
「それにしても、こんな時刻に電話だなんて……真田さんもよほど娘が大事なんですね」
山本は、いたずらっぽい目を寿明に向ける。
「君の父親だって連絡ぐらいしてくるだろう?」
山本は大きく首を横に振り、
「ぜんっぜん!またに掛けてきても、見合いの話ばっかりで」
「ハハッ!私だって娘がもう少し経てばそうなるさ。まだウチは子供だからね」
山本は優し気な表情を寿明に向けると、
「でも、羨ましい関係です」
(…羨ましい?…)
その言葉が、寿明の心に突き刺さる。
(…娘の身体に昔の妻を思い出し、欲情する私が?……)
「真田さん?」
山本の声が寿明の思考を遮った。
「ああ、すまない。ちょっと考え事をね。さあ、明日も早いから」
寿明は山本との会話を止めると、思いを打ち消すように、食事に集中した。