「史乃」-16
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「はぁっ…」
ため息を吐く史乃。彼女は夕食を食べていた。冷麺にツナマヨおにぎり。コンビニの惣菜。
父親がいない事もあって、自分の好物で済ませようと買って来たが、ひとりでの食事に寂しさを感じていた。
その時だ。
横に置いた携帯が、軽快なリズムを発する。静寂を破られた史乃は一瞬、躊躇した後、通話ボタンを押した。
声の主は由美だった。
「なあに?」
史乃の応対に由美はあっけらかんと、
「今、〇〇のクラブに居るんだけど、史乃も来ない?」
史乃の耳元には大音量の音楽が聴こえ、由美の声が聴きずらいほどだ。
「私はいいよ。明日にはお父さん帰って来るから、色々片づけないといけないから」
「昨日もそう言って逃げたじゃない!」
自分の思い通りにならない由美は、感情をぶつけてくる。どうやらアルコールが入ってるようだ。
対して史乃は、優しい口調でかわしていく。
「たまたま重なっただけよ。次は受けるから」
由美を何とかなだめて電話を切った史乃。途中だった夕食を再開すると、今度はリビングの電話が鳴りだした。
「今度は誰?」
ツカツカとリビングに行って子機を握ると、通話ボタンを押した。
「…はい、真田です……」
「どうした?そんな落ち込んだ声で……」
寿明だった。途端に史乃の声が弾む。
「お父さん!今、何処に居るの!」
「何処って伊勢だよ。言ってただろう?」
「…そうだっけ?」
史乃は満面の笑みのまま、子機を持ってダイニングテーブルに戻る。
耳元に流れる父の声が心地よい。一昨日夜の声が史乃の脳裏に浮かんだ。
「夕食は?何を食べたんだ」
「今、食べてる最中なの。冷麺とおにぎり」
寿明の問いかけに、普通に答える史乃。だが、左手はゆっくりとショートパンツに降りていく。
「旨そうだな。自分で作ったのか?」
指は布越しに秘部を撫でつける。寿明の声に、ゾクリとした感覚が史乃を襲う。
「違う…こ、コンビニで買って……」
吐息が漏れそうになるのを堪える史乃。指の動きが次第に強く、速くなる。
「ハハハッ!…一人だから好きにやってるな」
「…そんな事…ん…な…無いよ」
思わず吐息が漏れる。