「史乃」-15
ー第6章ー
混沌
三重県伊勢市 伊勢国〇ホテル
予定の取材を終えた寿明は、雑誌編集者の山本江梨子とホテルのレストランで夕食を摂っていた。
「真田さん。今日はお疲れさまでした」
「山本さんこそ、ご苦労様でした」
2人はグラスを重ねる。
山本は一気に半分ほどを飲む。対して寿明はわずかに口にした程度。
彼女は編集担当6年目。寿明の担当に就いて3年目だ。
山本を見た、寿明の第1印象はあまり良いモノでは無かった。容姿は普通だが雑誌社の人間にしては、どこか垢抜けて無かった。
しかし、物おじしない性格や細かな配慮が出来る事から、今では、寿明にとって無くてはならない存在だった。
「明日は午前中に〈お〇げ横丁〉へ出かけて、昼には帰りますから」
「お〇げ横丁?」
寿明が不思議な面持ちを見せると、山本は頷いて、
「伊勢神宮の内宮近くにある横丁で、江戸から明治に掛けての、古い屋敷が再現されてるんです」
山本の説明に納得し、
「なるほど。そいつは是非行きたいなぁ」
「でしょう!ついでに伊勢うどんなんかも食べて…」
山本がハッとして口をつぐむ。対して寿明はニヤニヤ笑いながら、
「まぁ、名物らしいからね」
寿明の言葉に顔が赤らむ山本。
すると、寿明は何かを思い出したように腕時計に目をやると、〈ちょっとスマン〉と席を立った。