「史乃」-12
ー第5章ー
芽生え
「じゃあ、行ってくるから」
早朝、玄関前で史乃の見送りを受ける寿明。
そのいでたちは、チェック柄の長袖ボタンダウンにカーキ色のパンツとハイキング帽と、取材というよりトレッキングを連想させる。
「お父さんたら、登山にでも行くみたいね」
史乃はクスクスと笑い、父をからかう。寿明は真顔で、
「今度の取材は登ったりするんだ。だからな……それより」
寿明は顔を曇らせると、話題を史乃へ向けた。
「オマエまた、そんな恰好で……」
花柄のキャミソールにピンクボーダーの短いパンツ。
「…変?」
そう言ってクルリと回って見せる様は、寿明に昨夜の裸体を思い起こさせる。
「…別に変じゃないが…そんな恰好で学校に行くのか?」
父の心配に、史乃は笑いながら右手を軽く振ると、
「違うわ。これは部屋着。いくら私でも、こんな恰好で出かけないわよ」
寿明の顔に笑顔が戻る。
「…行ってくるからな。オマエも急ぐんだぞ」
「うん、行ってらっしゃい」
史乃は、笑顔で手を振って寿明を送り出すと、
「さてと、私も準備しよっと!」
踵を返し、自室へと向かった。