やっぱすっきゃねん!U…B-9
すると、
「逆よぉ、何も無いから困ってんの!」
4月に好意を持って以来、約半年になるが、
「県大会中に1回、学校ですれ違う時に3回挨拶しただけで、その先が無いの」
俯いて喋る様は、いつもの姉御的な雰囲気は消え失せ、可愛らしい女の子そのものだ。
(良かった〜。この前、キャプテンと一瞬に1年生のクラスを回ったところは見られて無かったんだ…)
佳代はホッとした表情で尚美に訊いた。
「その先って、1回でも誘ったの?」
問いかけに、尚美は顔を赤らめ、一層深く俯くと、
「…そんな事言えるわけないでしょ。すれ違うだけで、心臓バクバクなのに…」
尚美の言葉に、佳代と有理は顔を合わせ、ため息を吐きつつ首を振る。
「大丈夫だよ、ナオちゃん!」
優しく声を掛け、肩を抱く佳代。尚美の耳元で、
「この大会すんだらさ。3年生は引退なんだ。そしたらキャプテンもヒマになるから」
佳代に続いて有理も、
「クリスマスにお正月、バレンタイン…十分間に合うわよ」
俯いた顔を上げる尚美。その顔には笑みが戻っていた。
「そうだよね。諦めるには……」
その時、佳代達の前に人影が現れる。
「となり、良いかな?」
尚美の言葉を遮ったのは、一哉だった。
「コーチ!来られたんですか?」
佳代が席をズラしながら声を弾ませる。一哉はいつものサングラスを掛けたまま、
「休みだったのでな。ちょっと見に来たんだ」
そう言って尚美や有理に目を向ける。その視線に気づいた佳代は、慌てた様子で、
「あっ、コーチ。こっちは同じクラスの友達です。ユリちゃんにナオちゃん」
サングラスを外し、2人に〈こんにちは〉と会釈する一哉。
尚美と有理も〈こんにちは〉と返す。が、顔が引きつっている。
一哉はサングラスを掛け直すと、練習の続くグランドに目を向ける。佳代も真似するように見つめた。
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