やっぱすっきゃねん!U…B-8
「い…いくら何でも、全国制覇なんて……」
冗談だと思い、力無く笑う永井に対し、一哉は自信溢れる表情で、
「無理ではありません。全国大会に出て来るチームは、実力差なんてわずかです。決して夢ではありません」
「いくら何でも…」
「永井さん…」
この時、一哉は真剣な眼差しで、
「…私や監督のアナタが、部員を信用してやらないでどうするんです?」
永井には口にする言葉が無かった。
「先日、私は部員と私達がひとつにならねばとアナタに言ったハズです。そのアナタが疑いを持ってたら、彼等が可哀想過ぎます」
一哉の言う通りだった。彼等が屈辱的な思いをして間もないのに、心のどこかで自身は監督1年目だから、そこそこの成績を残せれば良いと思っていた。
彼等にすれば最後の大会なのに。
永井はテーブルに両手をつくと、頭を下げた。
「すいませんでした!自分はどこか甘えてました」
一哉は慌てて永井の身を起こすと、
「誤りは正せば済む事です。お互い頑張りましょう」
2人の指導者は、ようやくひとつに成り得た。空には満天の星が輝いていた。
ー2週間後ー
区立総合運動公園。
3塁側内野スタンドに陣取る青葉中学校。佳代は一般参加で来ていた尚美と有理を、野球部が占める前の席に誘って、座っていた。
2ヶ月ぶりに訪れた球場。青々としていた外野の芝も、少し色褪せと処々が剥げて土が露出している。
忌まわしい記憶が甦る。が、どこか、遠い昔の事のように佳代には思えた。
「ココって野球部の席じゃないの?」
心配して尚美が声を掛ける。対して、佳代は笑顔で右手を振ると、
「別に、お金払って見てる訳じゃないから、気にしなくて良いよ」
そこまで言うとニヤニヤしながら、
「それにキャプテンの最後の大会だから。アンタが応援してやらなくっちゃ」
「それは余計な事でしょ!」
尚美は頬を染めて怒りだすと、佳代の背中を叩いた。
「…イッタ〜、そんな殴んなくたって…」
顔をしかめて背中をさする佳代。
「…アンタが変な事言うから…つい…」
尚美は口を尖らせる。
「ナオちゃん何かあったの?」
尚美の慌てふためき振りを、不思議に思った有理が訊いた。