やっぱすっきゃねん!U…B-7
「…私も、もう少し早く気づくべきでした……」
「どういう意味です?」
意味深な言葉に、一哉は訊いた。永井はしばらく黙っていたが、
「…実は、今日まで9名の部員が辞めてしまったんです」
悲痛な表情で語り掛ける永井に対し、一哉は明るい口調で、
「たった9名ですか。だったら大した影響は無いでしょう?」
「なっ!!」
一哉の返答に、永井は信じられないと言った表情で、
「アナタ!…本気ですか?今まで努力していた部員が9名も辞めたんですよ!」
興奮し、早口でまくし立てる永井。対して一哉は冷ややかな表情で語る。
「…だが、彼等はさらなる努力を拒んだ…それだけです」
永井は強い憤りを感じた。
「アナタの考え方は野球エリートの考え方だ!単に付いて来れない者は切り捨てていくだけだ」
真っ向から一哉の意見に背く。
だが、一哉はそれを一蹴する。
「アンタのは詭弁だ。オレ達、指導者の資質は何だ?選手の潜在能力を引き出す事だろう。
アンタは知らんかもしれんが、今のメンバーは稀に見るほどのポテンシャルを秘めている。
だったら、ポテンシャルを高める練習をやるべきじゃないのか?
それを意識レベルの低い奴らに合わせるなんて、本末転倒も甚だしいぜ!」
一哉は永井の目を見据えて言った。その射るような目付きに永井は言葉を失った。
一哉が続ける。
「私が全国大会を狙えると言った時、アナタは喜んで私を迎え入れた。これは皆を付いて来らせる授業とは違う。真剣勝負なんです。監督のアナタが揺らいでいてはチームはまとまりません」
永井は頭を垂れた。
「…確かに軽率でした。急に大勢の部員が辞めてしまって、動揺していました」
一哉は再び大きく頷くと、口調を明るく変えて、
「永井さん。実は、もうひとつ言い忘れてました」
永井はすっとんきょうな表情を見せると、
「もうひとつって?」
「来年の目標です」
「…それは先日、全国大会出場って……」
永井は怪訝な表情を浮かべる。すると、一哉はゆっくりと首を横に振り言った。
「全国制覇です」
これには、さすがの永井もソファから飛び上がらんばかりに驚いた。