やっぱすっきゃねん!U…B-5
「次に再来週に開催される県の秋季大会のメンバーだが……」
県秋季大会。中学校体育連盟が主催する大会で、県下120校あまりを地域ごとに3グループに分けて、2週間の土日と、祝日を含む計5日間でトーナメント戦を行う。
当初は、新チームのお披露目の場だったが、いつしか暗黙の了解で、3年生部員の最後の大会と化していった。
3年生達は永井の言葉に集中する。だが、彼は嬉しそうな声で、
「先日、主催者及び各校の指導者との意見交換会が有り……」
3年生達は次の言葉を待った。
「…3年生に限り、登録選手数の上限は儲けないと決まった!」
言い放った永井は目を細める。3年生達からも〈オオッ!〉と歓声が上がった。
「ら、来週からは大会に向けた練習をするから。…3年全員、準備しておくように!」
永井の言葉に3年生達は、力強く〈ハイッ!〉と返す。その一部の部員は目を赤くしていた。彼等は今まで、試合で使われた事がまったく無かったのだ。
「ヨシッ!ではランニング」
永井はすぐに練習を開始した。彼の目も赤くなっているのを、部員達に悟られないために。
グランドを走って行く部員達を見つめ、永井は監督としての喜びを噛み締めながら、今後の事をどう藤野と話し合おうかと思案していた。
*****
練習後。部員達は着替えて次々と学校から帰って行く。
永井は、職員室のソファに腰掛け、汗を拭いながらスポーツドリンクで喉の渇きを癒していた。
すると、ガラッと扉が開いた。藤野一哉だ。
「すいません!永井さん。お待たせしてしまって…」
深々と頭を下げる一哉に、永井は手を振ると、
「いえいえ…私も今、終えたばかりなんです。だから、気になさらずに」
「ありがとうございます」
一哉はそう言うと職員室に入り、永井の対面に座ると持参したビニール袋から何やら手渡した。
受け取った永井は、意外という顔を見せる。と、一哉は、はにかんだ表情で、
「カツ丼です。私が腹減ってたんで……まあ、メシでも食いながら…と…」
そう言いながら、ペットボトルのお茶を差し出した。
「じゃあ、せっかくなんで……」
永井の音頭で、2人は職員室でカツ丼を食べ始めた。
「実は永井さん。2点、お願いしたい事があるんですよ」
「何でしょう?」
永井は箸を休めると、一哉の言葉を待った。