壊れた美少女と幼き夢-3
「私のは、才能なんかじゃないわよ」
「そう――」
黒ぶち眼鏡の少女は「そうだろうか?」と言おうとして言葉を失う。
目の前の少女から、尋常ではない殺気のオーラが放たれていたからだ。
「私のは、違うわ。そう、私は壊れているだけよ…」
ナイフを瞬時に抜く。
さらに部室は緊迫した空気がはりつめた。
紀伊奈は身体が金縛りにあったように動けなくなる。
愛は、そんな部長の様子に気にするもなく、輝くナイフに映る自分を見詰める。
愛の顔は微笑していた。
愛は、それを見てさらに微笑を深める。
そうだ。きっと私は壊れてるんだわ…壊れてる、壊れてる、壊れてる。
「壊れてるの。…分かったかしら?」
黒ぶち眼鏡の少女は震えながら首を縦に振る。
「そう、良い娘――」
愛に唐突な衝動が走る。
血が流れ落ちる、肉を切り裂くナイフ、骨が折れる手応え、痛みを叫ぶ男。
まるでフラッシュバックのように脳裏を過る。
これは殺人の衝動。
「…用事があるので帰るわ、さようなら」
私の心はそれしか見えない。部長など目にもくれない。
殺気を撒き散らし愛は、獲物を求めて部室を出た。
殺気を纏う少女が部室から出ていったのを確認して紀伊奈は安心のため息を深くついた。
「…殺人の才能が…あるだけは…あるな」
汗が頬から流れ落ち、恐怖で身体が無意識に震えていた。これはいつものことだった。
商売の才能があるだけで、紀伊奈は弱かった。
基本的に商売は電話やメールで、商売相手を実際に前にしたらただのか弱い、女子高校生でしかない。
…大丈夫、大丈夫。
静かに自分に言い聞かせる。
10分してやっと、落ち着いてきた。
そして冷静に考える。
戦闘というのだろうか。殺し合いになれば、愛はおそらく私が知っている者達の中でもずば抜けて強いだろう。
女性でありながら、度胸もあるし、見かけによらず腕力もある。
その上、証拠や目撃者さえ残さないや、いつもは礼儀正しい美少女高校生を振る舞うなど警察に捕まる確率もかなり低い。
「怖いほどの才能だよな……だが」
そのおかげで助かる面もあった。
商売相手に会う時彼女にボディーガードをしてもらったり、いつもは優しい後輩で相談に乗ってもらったこともあった。
こう考えれば良いと思う紀伊奈だが、少女には他の客以上に何かの恐怖を感じていた。
強さとかではない。もっと根本的な何か…