冷たい情愛10-1
久しぶりに母校を歩いた後、外に出てみると…外はすでに夕暮れだった。
遠藤さんに電話しなくちゃ…
私は焦った。
都心から、3時間もかけて連れてきてしまったが…
考えてみれば、彼には全く縁のない場所。
面白くもなんともないだろう。
朝教えてくれた彼のプライベート携帯に電話をかけた。
「本当にすみません、今どこですか?」
『ああ、土手を端まで歩いてきたので橋の所まで来ています』
…随分と待たせてしまった…どうしよう…
とりあえず、私も急いで土手まで走る。
彼もこちらに向かって戻って来てくれたので、真ん中あたりで会うことが出来た。
私は息を切らせて言った。
「ごめんなさい…恩師と話し込んでしまって…」
「私は大丈夫ですよ」
彼は私と会話しているにも関わらず、遠くを見ていた。
私は彼の視線の先を追う。
するとそこには、私の母校があった。
夕焼けに照らされた校舎は、昔と変わらずそこに存在している。
「田舎でしょ?」
私は、照れ隠しにそう言った。
「いい学校です…」
彼はずっと校舎の方向を見ていた。
彼は、また一つ私の事を知ったことになる。
私だって…彼の事が知りたい。
「遠藤さんは、どんな高校生だったんですか?」
片山が聞いた時には、高校から関東に一人で出てきたと言っていた。
「そうですねえ…陸上をやってたので、練習に明け暮れていましたね」
「凄い!どの競技だったんですか?」
「ええ、長距離をやっていました」
若い彼が必死に走る姿を想像し、私は少し嬉しくなった。
「長距離選手って凄いですよね。今日誘ってきた友達も長距離やってたんです」
智子がこの土手を走っている姿を、駅行きのスクールバスを待ちながら私はよく眺めたものだった。
運動が苦手だった私は、その友の姿を見るのが嬉しく誇らしくもあった。
遠藤さんも…きっと忍耐強いランナーだったのだろう。
「笠原さん…でしたよね?お友達の名前」
「はい、凄くパワフルな女性ですよ!遠藤さんだと驚いてしまうかも」
この物静かな人と、あの騒がしい友を合わせたらどんなに面白いかを想像し…
私は少し笑ってしまった。