冷たい情愛10-6
「あの…遠藤さん…」
「ごめんなさい、笑ってしまって…」
彼は少し申し訳なさそうにそう言った。
「違うんです…あの…どうして、私の事を知ってるんですか?」
聞いてしまった…
少し怖いけれど、でも…知りたかった。
「ホクロの位置なんて…その他にも…その…なんていうか…」
彼が何を知っているのか…
彼が何を考えているのか…
彼はどんな人間なのか…
とにかく全てが知りたかった。
「もう少し、時間を置いたほうがいいと思います」
彼は、夕方からの笑顔が嘘のように消え…前々から知る冷静な顔に戻っていた。
せっかく彼の笑顔を見ることが出来たのに…私は尋ねた事を少し後悔した。
私が何か言葉を発すると、彼の笑顔が消えてしまうという気がしてきた。
「そろそろ行きましょうか…」
「え、あの…」
「部屋に帰りましょう」
「今夜も泊めてくれるんですか?」
「勿論ですよ」
彼は、何もなかったかのように淡々と答えた。
・・・・・・・・・・・
地下鉄の階段を上り外界へ出た。
彼の部屋まで、最初に来た日はタクシーだったので道が分からない。
どちらに向かって歩いていいのか迷う私の手を、そっと彼は握ってくれた。
「何か食べてくれば良かったですね」
ゆっくりと手を繋ぎ歩く。
あまりにも彼の動作は自然だったので、すぐには思わなかったが…
考えてみれば、手をつないで夜道を歩くなど…
まるで恋人同士のようではないか…
彼には大切に想う人がいるのだから…
これは、私が道に迷わぬようにとしているだけだ…
「冷蔵庫に、何かあったかな」
彼は独り言を呟いた。
「あの…私、何か作りましょうか」
流れでそう言ってしまった私。
普段は、女だからという理由から男に料理を作る事など絶対に無い。
作るのは「自分も食べたいから」という理由なのだ。
しかし、今日は散々私の都合に彼を付き合わせてしまったし…
という言い訳をしてみたが、本当は…体だけの行為ではない事を…
彼にしてあげたくなったのだ。