冷たい情愛10-4
電車は終点駅に到着した。
ここから乗客は山手線に乗り換え、様々な方向に散ってゆく。
考えてみれば、彼をゲーセンに誘ったのはいいが…
行った事がないので、何処の街にあるのかも全く知らない。
それを正直に彼に話すと、彼は大笑いし始めた。
「じゃあ、新宿に行きましょうか」
遠藤さんは山手線の改札口に早歩きで向かい始め、私もその後についていった。
新宿に着いた…
いつもは、朝の八時前にはこの駅を使う私。
スーツに身を包み、仕事の顔に切り替えるこの大きな駅。
土曜の夜…新宿駅はにぎやかだ。
若い子たちが街に溢れている。
私もかつて大学生の頃は、夜の新宿を無駄に歩いたものだった。
「遠藤さんも、大学時代は新宿で飲んだりしましたか?」
「ええ、よく飲みましたね。」
彼の学部は殆どが男ばかりで、飲んでむさくるしかったと笑って言った。
間もなくゲーセンに到着した。
ものすごい電子音が鳴り響く。あれだけ嫌悪していたその音たちが、今は私の心を躍らせる。
私は単純な人間だったのだ。
先生がいなくなってから…私は卑屈になっていたのに…
今は、この電子音すら耳と心に楽しく鳴り響く。
そして横には、笑顔の彼がいる。
中に入って驚いたが、昔ながらのゲームから、大きな卵のような中に入って臨場感が味わえるゲームまで
いろんなものが揃っていた。
私は一つの機械に目がとまった。
私が高校生の頃からあった、UFOキャッチャーと呼ばれる機械。
昔はぬいぐるみばかりが入っていたような気がしたが、今はいろんなものが入っている。
その中で、私は…ペンギンの小さなぬいぐるみを見つけた。
「かわいい…」
私は年甲斐もなく、ガラスに張り付きそのぬいぐるみを眺めた。
大きな目をした、可愛いペンギン…。
私はその時思い出した。
彼の部屋にあったぬいぐるみを…。
そうだ…
彼には、大切に想う人がいるんだ…
土曜の夜だというのに…私なんかと過ごしていていいのだろうか。
私が無理やり誘ったから…付き合ってくれているんだろうか。
胸が少し痛んだ。
「もしかして、これが欲しいんですか?」
振り返ると、少し上に彼の顔があった。
「え?いえ…そんなんじゃ…」
私はなんと言葉を発してよいのか分からず、曖昧な返事をする。