投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

冷たい情愛
【女性向け 官能小説】

冷たい情愛の最初へ 冷たい情愛 94 冷たい情愛 96 冷たい情愛の最後へ

冷たい情愛10-2

「高校時代って、彼女とかいたんですか?」
私は調子にのって、色々聞いてしまおうと決めこんだ。

「いませんでした。好きは人はいたんですが…片想いでしたね」
遠藤さんの顔を見ると、穏やかな表情だった。

彼の顔が、感情を表すのは珍しく…
私はその貴重な時を逃さないよう、彼の顔を見つめ続けた。

彼はずっと…私の母校を眺め続けている。
私も彼から目を逸らし、夕日に照らされる母校を眺めた。

来て良かった…

そう思った。
もし来ていなければ…私はこの先もずっと、先生を恨んでいただろう。
恨んで悲しみに浸り続け…他の男の体と、少しの優しさだけで満足してしまう、麻痺した心のままだっただろう。

先生が…親兄弟を見捨てて私を選んでいたら…
その先ずっと一緒にいられたとしても…その苦しさからは逃れられなかっただろう。

先生も私も…
これで良かったんだ…

そう思えるようになっていた。

12年間の感情が、先生の本当の心を知ることが出来た事で…全て穏やかなものに変わっていくのを感じた。

「今、何を考えているんですか?」

彼が静かに言い、私も静かに答えた。

「昔好きだった人の事を考えてました…ずっと恨んでたんですけどね…
今日、やっと終わったというか…穏やかな気持ちになれたんです」


私は、誰かに話したかったのかもしれない…
友にも話せず、12年間ただ一人で抱えていた子どもだった心の中を。

先生とこの学び舎で出会った事…
勉強を教えてもらった事…
卒業と同時に私の前から消えた事…
それでも好きで忘れられなかった事…

私は吐き出し続けた。
遠藤さんはそれを、ただ黙って話を聞いていてくれた。


夕暮れが終わり…夜を迎える頃まで…私は彼の隣で…かつての学び舎を眺めながら…
穏やかに迎えられた想いの終わりを実感していた。


・・・・・・・・・・・・・

最寄り駅までバスで戻り、私は考えた。

ここからだと、実家まで近い。
帰宅するのが当然なのだが…彼と離れるのが嫌だった。

しかしせっかくの休日を、こんな田舎まで連れ回し、更に一緒にいたいなど…
我侭過ぎる。

「今日はありがとうございました…こんなに遠くまで」

「いえ、私も久しぶりに息抜きできて良かったです」

私の勘違いだろうか…
なんだか、今夜の彼は穏やかで表情が柔らかい。

それもそうか…休日まで、仕事の時のような顔は出来ないだろうし。

二人で乗り込んだ電車の外は、すでに遠くの明かりが見えるだけ。


冷たい情愛の最初へ 冷たい情愛 94 冷たい情愛 96 冷たい情愛の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前