桜-1
数時間後、“お前”は目を覚ました。
な、ん、で…?
声は出ていなかった。
けれどたしかに“お前”の口はそう動いた。
その瞬間、やはり俺は涙をこらえることができなかった。
ボロボロと滴が頬を勢いよく伝った。
“お前”の目からもつうっと涙が流れた。
俺は今日、もう何度泣いただろうか。
瞼はきっと腫れ上がり、ひどい顔をしているだろう。
いつもなら、“お前”は
泣き虫!
なんて言って笑っていたのに。
“お前”はいつまでもいつまでも泣いていた。
それからいろいろな話をした。
空白の半年間であった他愛のない出来事をだらだらと並べただけ。
でも“お前”はまばたきもせずに、笑顔でコクリ、コクリと頷いてくれた。
楽しかった。
空白が埋まっていく。
そんな気がした。
“お前”は聞かなかった。
俺がなぜ“お前”の居場所がわかったか。
しかし、やがて“お前”は疲れたのか眠ってしまった。
夕方、お母さんが戻ってきた。
俺はまたも瞳を潤ませながら、本当にありがとうございます、と言った。
しかし、お母さんは唐突に。
桜
と言った。
桜?
俺は意味もわからず聞き返した。
そりゃあ意味がわからない。
突然桜なんて。今は二月だし。
しかし、気付いてハッとしたときにはもう遅かった。
娘は…娘は次の桜を見ることができません…
二度目のショックに、頭の中はグラングランといつまでも揺れていた。