ヒトナツC-4
「か、彼女って!?」
「……」
思い当たる節がないでもない。
桜はなんで渚のことを知っているんだ?
「……健吾さん、駅で綺麗な人と抱き合っていました」
「……は!?」
抱き合った記憶なんて……ある。
渚と都心に出かけたときだ。
あいつに引っ張られてぶつかった。
だけどあれは、抱き合ったんじゃない。
「違う!」
俺は叫んだ。
だって本当に違うから。
「嘘!」
……信じてくれるわけねーよな。
「本当だって!」
「もういい!私達、もう終わりですよね!」
「っ」
なんか頭にきた。
違うんだって。
俺は、俺はヘタレだけどさ。
大切な人を傷つけたり、泣かせたりなんて絶対に俺はしない。
「ふざけんな!!バカ!!」
「ふぇっ?」
桜は驚いて変な声を出した。
「勝手に嘘とか終わりとか!憶測でもの言ってんじゃねえよ!!」
「……」
「待ってろよ!今すぐそっちに行くからな!わかったか!」
俺はそれだけ言うと、階段を駆け下りて桜のいるホームに着いた。
桜はうずくまっている。
「……桜」
「……」
「ほうら、服汚れんぞ」
俺は桜の肩を支えて立ち上がった。
内心すげードキドキしながら。
桜は下を見たまま全く微動だにしない。
「怒鳴って悪かった」
そう言った直後、桜はわんわん泣き出した。
「……ごめん」
こんなに弱々しく落ち込んだ桜を見たのは初めてだった。
「あの女は……」
そう言いかけても、桜はこっちを見なかった。
「幼なじみなんだ」
「……」
***
渚とのこれまでの経緯をすべて話し終わったときには、すでに桜は泣き止んでいた。
「……わかった?」
「……ごめんなさい」
桜はばつが悪そうに頭を下げた。
「いーよ」
俺は桜の頭を撫でながら優しく笑いかける。
俺の精一杯の笑顔だ。