ヒトナツC-2
「もしも…」
「只今、電話に出ることができません。ピーという発信…」
なんだこの悪循環は!
俺、マジでやばいんじゃね?
苦笑いしながらベッドに飛び込む。
う、やば、また睡魔が……
「…あ、もしも」
「只今、電話に出ることができません。ピーという発信…」
「…健吾さん、私たち、だめなのかな?」
***
「おはよ」
「おはよ、ってもう夕方よ」
リビングに顔を出すと、渚はふてぶてしく煎餅をかじりながらテレビを見ていた。
「誰かのせいで疲れてる」
「誰よ」
「一人しかいねーよ」
「彼女?」
なぜかしらばっくれる渚をスルーして、俺も煎餅に手を伸ばした。
「健吾、ケータイ鳴ってたわよ」
「っお前!また部屋入ったんかい」
こいつはいつも勝手に部屋に侵入する。
次やったら不法侵入で訴えたろうか。
「……彼女じゃないの?」
「ああっ!」
忘れてた。
「これやる!」
「え?ちょっと!んむっ!」
俺は持っていた食いかけの煎餅を渚の口に押し込み、ダダダと階段を駆け上ってケータイに飛びついた。
すぐに発信する。
「……さ、桜!?」
「健吾さ…ん」
「ごめん、電話」
「いえ、私もとれなかったから…」
「デートに誘おうと思ったんだけどさ、はは」
「そうなんですね」
「……」
やけに他人行儀だな、いつにもまして。
「まあ、またの機会って感じだね」
「……健吾さん」
「え?」
「健吾さんは…私のこと好き?」
「へ?」
まさかこれは…ケンタッキ…倦怠期のカップルによくある会話じゃないのか?
落ち着け俺!
「す…好きだよ?はは」
いかん、声がうわずった。
「それなら、証明してもらえますか?」
「へ?」
電話が切れた。
リダイアルしようとする手を瞬時に止めて、考える。
いや、考えていたって始まらない。
俺は走った。
桜のいる場所へ。
***
「……」
玄関を飛び出していった健吾をあたしは黙って見送った。
あたしは彼らの邪魔なんてしたくない。
でも、やっぱり耐えられないわ。
あたしは健吾に会いに日本に帰ってきたんだから。
健吾を手に入れるためだけに……
ねえ、どうしたらいいの?