遺書に書かれた名-1
「『遺書
父さん、母さん、ごめん。でも俺、やっぱり無理だよ。頑張ったけど、無理だったよ。弱い俺だから、こんな逃げ方しか出来なかったんだ。こんなやり方でしか、奴らに伝えられないんだ。』…」
担任は真っ白な便箋をゆっくりたたみ、ため息をついた。顔を上げて下唇を噛むと、教壇を強く叩いた。バンッという音が、静まり返った教室に響く。
「以上が、松本の遺書に書いてあった。俺は、おまえらを信じていた!何故裏切った!!…いじめなんて…」
担任の濱田が声を荒げた。生徒達はだいたい俯いて、濱田の言葉を耳に入れている。
…勝手に信じられても。
クラスの一人が、昨日自殺した。
気の弱い男子で、いつも誰に対してもびくびくしていた。嫌われていた。
陰湿ないじめを受けていたのだ。
実は俺はあいつと仲がよかった。しかしその輪からは逃れられず、俺も嫌がらせに加わっていた。
『あっ』
『なんだよ松本、下駄箱で気持ち悪い声出してんなよ!ゴミか虫でも入ってたか?』
『アハハハハ…』
『た、たっちゃん…』
『俺に触るな、…気持ち悪い』
「…俺は悔しいよ」
濱田のやたら震えた声で現実に引き戻される。ふと顔を上げると、ぽたぽたと雫が落ちている。俺はそれを平然と眺めた。
「心当たりのある奴は出てこい。以上だ」
なわけないでしょう、先生。
三日経った昼休憩。濱田に呼び出され、職員室に向かった。
後ろに立った俺に気付いた濱田が、「座れ」と声をかけたので隣の椅子を引っ張りだし、腰を下ろす。
「なんですか」
愛想笑いを浮かべる俺に、濱田は机の上に畳まれた便箋を広げ、読み始めた。
松本の、遺書。
しかし三日前と違う箇所があった。
「『…伝えられないんだ。
笠原君、これで少しは変わってくれるかな。』」
――!?
「どうだ、笠原。おまえは変われたのか」
「な…!?」
「三日待った。駄目だった」
俺を見据え呟いた。その目は、何かを諦めたようだった。
「…明日、親御さんと警察に行こう」