忘れてしまった君の詩・2〜第一章〜-1
七月も半ば過ぎ。
ただよい始めた夏の気配に、僕は早くもうんざりしていた。
梅雨の強権勢力が日本列島から手を引いてからしばらく経ち、空は申し分なく晴れている。
朝の通学路。
見上げた空には呪縛から解き放たれた太陽が、今までの分もと己の存在をアピールしている。
自己主張は大いに結構。
だが、もう少しくらい遠慮してほしい。
毎日毎日、こう暑苦しくされては、無理矢理にでも有給休暇を与えたくなってくる。
おまけに今日という日はそよとも風が吹いてこないときたもんだ。
「はぁ……」
切実に思う。
「誰でもいい。誰か、あいつを引っ込めさせてくれ」
「何をアホみたいなこと言うとるんや」
右どなり、やたらと元気のいい勇介が言った。
衣替えも過ぎ、僕らの服装は夏仕様へと変じているわけだが、表情の爽やかさには雲泥の差が生じている。言うまでもないことではあるけど泥をかぶっているのが僕の方。
「夏はまだまだ始まったばかりやないか。そんなんで本番を乗り切れるんか?」
「うるさい。僕は暑いのが苦手なんだよ」
そういう声にも、自分でわかるくらいに覇気がない。額から流れ落ちる汗がひたすらに不快だ。
「お兄ちゃん、昔からそうだったよね」
左どなり、苦笑いを浮かべて香織ちゃんが言った。
僕らと同様、彼女も薄着へと鎧をといておるわけだが、これが活発な印象の彼女にはひどく似合っていたりするのだった。
兄の立場としてはこれを期に、彼女に良からぬ虫が寄ってきやしないかと、甚だ心配だったりする今日この頃。
そんな僕の心配を余所に当の香織ちゃんはといえば、『良からぬ虫候補生第一号』と楽しそうに会話を続けている。
「暑いのも寒いのも両方ダメ。好きな季節は春と秋。理由は……」
「暑くも寒くもないからか?」
「正解」
「はあ。若者らしさの『わ』の字もあらへんやっちゃ」
心底呆れ果てたという勇介の台詞に、僕は短く、
「やかましい」
と言うに留めた。
悔しいがこいつの言っていることは紛れもない事実であるし、こちらとしてはそんなことで朝っぱらから貴重な気力を使うようなマネはしたくない。
いくら期末考査も終わり、学校が午前中のみの短縮日程に入ったとはいえ、それでも一日はまだまだ長いのだ。
そんなこんなでしばらくダラダラと歩いていると、話題は別のことへと移っていった。