忘れてしまった君の詩・2〜第一章〜-4
「またか……」
そうぼやく言葉にも、どこかマンネリ化しつつある響きがあって、なんだか申し訳ない気分になった。
きっとこれを差出した相手は、僕がこんな反応を返しているなんて思いもしていないに違いないのだから。
とにもかくにも、このままではマズイ。僕は手紙を胸ポケットへと回収すると、トボトボ、男子トイレへと足を進めた。
朝の通用口。
いくらクラスメイトが登校してくるにはまだ早い時間帯とはいえ、それでも誰がやってくるとも限らない。
もし、こんなところをウチの男子連中の誰かに見られようものなら、その日一日、満足に立ち上がることもできなくなるくらいからかわれ倒されるのは、初日で嫌というほど理解させられている。
念には念を。人目を気にしつつ、スパイよろしく個室に滑り込んだ僕は、しっかりと鍵をかけてから改めて手紙を矯めつ眇めつ観察してみた。
と、封筒の裏側、差出人らしき名が記されているのを見つけた。
(村田結衣、ね……知らない名前だな)
だが、驚くには価しない。
今までもらった手紙の大半も見ず知らずの人間のものがほとんどだったのだから。
「さて。中身は、と」
これで中から、『ハズレ』なんて書かれた紙でも出てきてくれようものなら、僕としても新鮮なリアクションを返してあげることができるのだけれども……。
当然、そんなものは入っていない。
代わりに出てきたのは折り目正しい一枚の便箋。
習字の手本のような文字でこんなことが書かれている。
『突然のお手紙、ごめんなさい。けれど、会って直接お話したいことがあるんです。つきましては、今日の放課後、屋上までお越しください。待っています』
読み終わり、しばし黙考する。
何かが気になったのだが……、はて、なんだろうね?
内容は簡潔に呼び出しを告げるものだし、文法的にもおかしなとこは見当たらない。
なのに、妙にひっかかる……。
違和感の正体を掴もうと何度か繰り返し読んでいるうちに、背中を預けたドアの向こう側が俄かに騒がしくなってきたことに気がついた。
はめた腕時計に目を落とせば、いつの間にか始業時間まで5分と迫っている。
「やばっ」
僕は手紙を通学カバンの一番底へと押し込み、男子トイレから飛び出した。
ウチのクラスにはチャイムの有無に関わらず、担任が入室した時点で遅刻というなんとも横暴なルールが存在している。
決めたのは他でもない、学級担任。