忘れてしまった君の詩・2〜第一章〜-3
「そういえば、そうだったわね」
香織ちゃんも思い出したようで、合いの手を打ってくれた。
「僕と同じ帰宅部なわけだし、お前のとこにも当然、勧誘がきてるんだろ?」
「まあ、来とることには来とるが……」
「が?」
「ワイはもう三年やし、来年にはもういなくなる身やからな。奴さんもそれほど熱心というわけやあらへん」
「ああ、なるほどね」
それに三年生なら受験という絶対的有利な言い訳もたつわけだ。
自称とはいえ一応進学校。受験をカタに取られては引き下がるより他にしようがない。
言い訳探しに悪戦苦闘している僕にとっては、羨ましいことこの上ないご身分である。
「まあまあ、そうしょげかえらんと。それにワイかて龍麻が入るいうんなら、考えなくもないんやで?」
そう言って僕を試すように、視線を向けてくる勇介。
それにギロリとねめつけておいて、僕は言った。
「入るわけないだろ。ただでさえ家事で忙しいっていうのに」
「あっそ。そら残念」
言葉とは裏腹、ちっとも残念そうじゃない勇介の口調。
まったく、こいつは僕に何を期待しておるのやら……。そんなもの、答えを聞くまでもなくわかり切っていることだろうに。
と、そんな話をしているうちに学校に辿り着いた。
校門を潜り、ここからは別行動。勇介は三年の、僕ら兄妹もそれぞれのクラスの下駄箱へと向かう。
はたして、僕は後に災厄の招き手となる『それ』を見つけることになるのだった。
言うまでもなく、もう一つの懸案事項ってヤツである。
『それ』は一通の手紙の形をして、僕の下駄箱に収められていた。
小洒落た一通の封筒。
止めに用いられたシールは中身の内容を伺わせるような、デコレーション過剰な赤いハートマーク。
ラブレター……百人が百人、これを見たならば、そう答えるであろう代物はここ最近の僕にとってはすっかり見慣れてしまったものだったりした。
なにせこの間の球技大会からこっち、毎日のように目にしているのだ。
僕としては最早、驚くとか焦るという感情すら湧いちゃこない。