バレンタインの後に-1
そもそもバレンタインデーとは、三世紀の中頃に当時のローマ皇帝に背き、処刑されたバレンティウスとかいう人物の命日に由来する記念日だという。
軍隊において、若い兵士達の士気の低下を防ぐ目的で、兵士が結婚する事を禁じた皇帝に背き、バレンティウスは結婚を望む兵士とその恋人との結婚式を強引に執り行ったのだそうな。
そんなエピソードから今日二月十四日は、世界中で愛を誓う記念日とされてきたと、今朝読んだ新聞に書いてあったのだが……
どう考えても、我が日本のそれは、単なるチョコレート祭りだと僕は思う。
義理チョコだの、三倍返しだの。
しかも先程、職場からの帰宅途中に見掛けた女子高生達などは、女の子同士でチョコレートを交換していた。
どうやら、最近流行りの「友チョコ」というものらしい。
大切な友達に日頃の感謝と愛情を込めて…… という趣旨があるそうだが、男にプレゼントするだけ、まだ義理チョコの方がバレンタインデーの持つ本来の意味から遠ざかっていない気がするのは、果たして僕だけだろうか。
そんな事を考えながら家路を経て部屋のドアを開けると、彼女が満面の笑みを浮かべながら大きなケーキの箱を片手に僕を出迎えた。
「なんだ、それ」
「おかえりなさい。ほら、今日はバレンタインでしょ? だから駅前のお店で、限定品のチョコレートケーキを予約しておいたのよ。私、前から食べたかったんだぁ、これ!」
驚いた。
女の子同士どころか、自分自身にチョコレートをプレゼントする輩まで現れた様だ。
「ん、どうしたの?」
「い、いや別に」
「ほら、早く食べようっ! 待ってたんだからさ?」
言いながらキッチンへ向かい、忙しく箱を開け、鼻唄混じりで小踊りしながらケーキを切り分ける。
そんな彼女の様子に僕は呆れながらも、次第に少しづつ幸せな気持ちになっていく。
そして、なんとなく思い付いて、試しに訊いてみる事にした。
「なあ、バレンタインデーの本当の意味って知ってるか?」
「えー、女の子が告白したり、好きな相手にチョコをあげる日でしょ?」
「違うんだなぁ、これが」
「何よ、また、物識りぶってさ!」
知らなければ、知らないで別に構わないのだ。
ただ僕は、本来のバレンタインデーの意味を尊重し、残りの今日を過ごそうと思う。
そして、そっと一日の終りに、眠る前にでも彼女に教えてやろう。
バレンタインデーのの持つ本来の意味を。
愛を誓う、その言葉とともに。
おしまい。