明日への扉-8
ー昼休みー
教室内に幾つかのカタマリができ、笑い声や奇声が挙がる。
真希はいつもの輪の中で弁当を展げていた。
すると、
「マキぃ。朝、古河と何か話してたよね」
そう言って、訊いて来たのは律子だった。真希は慌てて口にしたモノを飲み込むと、
「…別に…朝の挨拶しただけだよ…」
俯いて答える真希に対して、律子は茶化すように、
「そんな訳無いでしょう。笑顔で話してた上、本まで受け取ってたじゃない」
すると、周りから奇声が挙がった。〈マキって古河が好みなの?〉〈本って何?プレゼント〉〈ひょっとして、付き合ってるの?〉
などと、真希は質問責めに遭った。だが、彼女は黙ったまま何も答えない。
チラリと義之に目を向けるが、聞こえてるハズなのにまったく無視している。
律子は執拗に真希に訊く。
「私達、友達じゃない。教えなさいよォ」
(…友達……?)
真希は、俯いた顔を上げると、まじまじと律子の顔を見つめる。
(…アナタと私が友達?)
「…どうしたの?」
真希の目にたじろぎの表情を見せた律子が、思わず口にしたた言葉を耳にすると、
「…本当に何でもないの」
そう言って、真希は薄く笑った。
律子は、さも残念そうな顔をすると、
「そう…じゃあいいわ。言い難いんだったら無理に聞かない……」
教室に静寂が広がる。気まずい雰囲気の中、真希は周りに囲まれながらも、ひとり孤独な昼食を摂るのだった。
ー夜ー
夕食と入浴を早々に済ませた真希は、机に置いたカバンから本を取り出した。
〈銀河鉄〇の夜〉
義之に借りた本。部屋の明かりを消すと、ベッドのナイトランプをつける。
枕元で読み進めていく真希。
友達のジョバ〇ニとカムパネ〇ラ。午后の授業で先生に天の川について質問されるが、答えられないジョバ〇ニをかばうように、自分も答えないカムパネ〇ラ。
病弱な母や、漁に出たまま帰ってこない父に替わって働くジョバ〇ニ。対して何不自由無く育ったカムパネ〇ラ。
ケンタウリ祭りの最中、ひとり天気輪の柱の丘で孤独を噛みしめるジョバ〇ニ。
真希は、読んで行くうちに心が、ジョバ〇ニに傾注していった。
突然現れる銀河ステーション。そこに停車する機関車にジョバ〇ニが乗り込むと、すでにカムパネ〇ラも乗っていた……
真希は、いつしか眠っていた。その瞳はわずかに濡れていた。